ザ・ストライパーズ

※囚人パロ

この世に生を受けて十七年間傍観と便乗でやってきた俺はとうとうこの度お縄についた。罪状、窃盗罪傷害罪器物破損罪公務執行妨害及び強姦未遂。最後のは濡れ衣も良いところだった、要するに不況に耐えかねた暴動に乗っかって荒れた店を更に荒らして警官振り払ったらそいつ棚で頭打っちゃって血を見て叫んだおばさんを力ずくで止めようとした、らこうなったのだ。我ながら情けない前科デビューだ。だっせェ。兎に角日本は病んでいた。コードケーザイセイチョーキが忘れられなかったのか何処も彼処も自給率が低すぎるのに作業着なんか着てた。区別する為にここも古きよき全身横縞模様を採用したらしい。尚だっせェ。

「玄野、始まる」
「ん」
「今日の“奉仕活動”」
「もう?」
「ん」

俺の監房メイトは中学生だった。この国では十四歳から立派な犯罪者になれるのだ。西丈一郎、殺人罪。らしい。周りからあまり良く思われてないのか陰でマトリサイダーなんて呼ばれてる。母殺し。反抗期なら仕方ないと思ったし正直どうでも良かった、目下問題なのはこれからだ。部屋の真ん中に良く解らない大きくて黒い球体が置かれていて、おもむろにラジオ体操の歌が流れ出す。此処だけにあるものじゃないのは音の響き方で解った。何しろ食事は運ばれてくるし他の監房と繋がってる廊下には出たことがない。それでも外に行かないことには奉仕活動なんて出来ないんだけど。

「今日どんな奴」
「なんか変なの」
「変じゃなかったのないだろ」
「油断してんな」
「こっちの台詞」

球体の両脇が飛び出れば武器の格納庫だった。西は黒光りするショットガンを引き抜いて缶ジュースでも振る様に片手で装填した。俺は迷った末に刀の柄しかないものを選んだ。

「お前それ好きなの」
「タイムラグなくて良いだろ」
「良いだろ。ふん。格好良いね」
「何だよ」
「別に」

快楽殺人者。
お前にだけは云われたくないと文句を云う前に西の耳は無くなっていた。俺も下半身が既に球体から出たレーザーの餌食になっている。冷たい。今日は風があるなぁと思った。



「おう計ちゃん」
「よお加藤」

転送が終わると今回は三百六十度空の見えて風を遮るものがない大草原で納得する。声を掛けてきたのは加藤勝、正犯幇助。幼なじみだった。優しいのが仇で騙されて此処にやってきた可哀想な奴だった。西がまた勝手に何処か行ったと思えば少し遠くで加藤と同じ監房の和泉と何か話している。入所期が同じらしく良く見かける光景だったけど微妙に面白くない。和泉紫音、殺人罪。正に今から始まる“奉仕活動”に興味を持ってわざわざ人殺しまでした奴だ、監房メイトとしてはやっぱり、そんな奴と一緒にいるのが面白くない。

「なあ計ちゃん」
「なん」
「俺たちのやってる、さぁ」
「『地球防衛』?」
「……アレ、本当に」
「いい加減慣れろよ加藤」
「…………」
「昨日俺たち何人死刑だった?」

玄野さぁん、加藤さぁん。
緊張状態はふわふわ跳ねる明るい髪の毛にぶっ千切られた。桜井弘斗、暴行罪殺人未遂及び建造物等損壊罪。見た目の割に危ない奴だとつくづく思う。思うだけじゃ飽き足らず云ってみた。

「冤罪っスよ!」
「怒るなよ」
「でも冤罪みたいなもんだよな」
「罪状なんて何でも良いんだよ」

二人、話に入る。中学生に不相応な冷えた笑顔で西が云った。

「俺たちは兵だ、徴兵された」
「刑期なんて関係ない」
「どういうことだよ」
「来たぜ」

三百六十度見える、筈の空に影が重なる。一つから二つ、十から二十から三十。星人、と呼んでいた。確かに地球には到底いそうもない容姿と動きで襲いかかるから『地球防衛』という『奉仕活動』をするのが受刑者の仕事だった。全部ぶっ殺せば終わり。殺されればそれがその侭死刑。思えば至極不公平だ。寧ろ今まで感じなかった違和感に震えた。隣で笑う西にこれは武者震いだと云い訳をして、手に持った柄を振り下ろす。黒い刀身が顔を出す。和泉も同じ武器を既に構えていた。西も構える。桜井も構える。白と黒の服を着た人間が一斉に同じ動作をする。少し遅れて加藤も続く。生きる為。また必要とされる為。生死の予感に血が沸く。身軽な俺を思い浮かべる。背中の辺りに溜まった熱に突き飛ばされて走り出す。



「なー西」
「何」
「この点数って、何」

ちいんと涼しい音がして最初に『十五点』と大きく、それから次々に下手くそな字が球体に浮かんでは消えて最後に『くろのくんとにしくんチーム 五点』と点いた。

「今日の星人の三分の一俺らが倒したんだろ」
「まぁそうだけど」
「和泉んとこ四点だったな。ざまみろ」
「百点取ったら何かあんの」
「刑期縮小」
「マジ?」
「って云われてる」
「んだよ曖昧だな」
「あと活動が楽になる」
「弱くなんの」
「いや、俺らが強くなるらしい」

どういう仕組みか解らなくても西は専らそっち狙いらしい。目が爛々と輝いている。俺は前者の方が断然良かった。重なった罪で馬鹿みたいな長さの間ここにいなければならないことになっていた。

「玄野もここにいろよ」
「やだよ」
「お前、才能あるよ」

隣に来た癖に背を向けて座る体重が肩にかかって、入所当時酷く無愛想だった西に懐かれたと思ってしまえばそんなん嬉しくねえなんてとうとう云えない。肩に乗っかった頭に頭を乗せ返す。寧ろ逆のことを云いたかった。どんなに罪が軽くたって星人によっては一回の奉仕活動で死ぬリスクが高い。現に今日は十人近く処刑された。グロテスクだった。顔も知らない奴だと一瞬でも安心してしまったのは確かに自分が順応してる証拠だ。だから西さ、お前まだやり直せんだからさ。

「馬鹿だな玄野」
「え?」
「外に出ても同じだって」
「……まぁ、ニュース観たらな」
「そろそろ自覚しただろ、本当に防衛は地球規模なんだって。政府が関わってる。俺らの人権問題も罪を犯したって云えばチャラだ。でも安定した食糧と生きてりゃ先端技術で全回復、それに何より」
「何より、なんだよ」
「楽しいだろ、玄野」

俺と同じで。
冗談じゃない。俺は至って普通で十七年間傍観と便乗で生きてきて、生きてなんぼで何より我が身が可愛くて、奪うのが奪われるのが、そんな命の遣り取りが楽しい訳あるか。肩をどかすと急に体重の支えがなくなった西が後ろに倒れてごち、と小気味良い音がした。キレる現代中学生になる前になんとか上に乗る。女人禁制のここでは別に珍しくはない。

「何だよふざけんな」
「お前がふざけんな」
「図星だろ」
「るっせ」

服の下から肋骨をなぞると西の身体が過剰に跳ねた。前髪が耳の方に落ちる。中学生男子に欲情出来る辺りだけは俺も普通じゃないかも知れないけど。だけど。

「親殺した奴と一緒にすんな」
「は?……あぁ、信じてんの」
「半疑。どうなの」
「その侭半信してて良いよ」
「どういう意味」
「ホントのこと云うと」
「うん」
「俺が家帰った時もう死んでた」

首吊ってて、親父への恨みを書き殴った紙が散らばってたから俺はそれ全部燃やして縄の結び目解いて静かに下ろして結び目のクセが付いてる所を切り落として指紋つけまくって首に巻き直して死体綺麗にしてそれから警察に電話したよ。

「認めたくなかった」

僕がいるのにママが死んだなんて認めたくなかったんだ。云って西は腕で顔を覆ってさめざめと泣いた。なんだかなあと思った。身体を起こして背中を叩く。生きようぜ。その為に沢山殺さなきゃなんないけど。白い希望みたいな生、黒い絶望みたいな死。俺が皺だらけにした所為で西の服のそれらがぐしゃぐしゃに混ざる。とっとと脱がせてしまいたい。自分だって脱いでしまいたい。解脱願望なんてまるで釈迦だ、罪人の癖に。


(110613)


面子からいって
少年院みたいなとこだと
思って戴ければ





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