鉛の夜

※R18の玄野&西&クローン玄野3P

だってねぇ狡いでしょ俺はお前でお前は俺で、なんて思うだけで吐き気がして正当性を訴えるのも不快感には勝てなくて夜に視る夢の主人公が自分じゃない時の感覚と録音した自分の声を聴く時の感覚があったって俺たちは違う服を着て違う手足を動かしている。別人と認識しようにも「わたし」しかいなくて「あなた」がいない。他人の存在があって初めて自己が認識出来るのだ、と現代文でやった気がする。覚えてる俺は偉い。

「ん、」
「西。唇かむな」

そして“俺”は“二人共”あっさり二人称に西を選んだのだった。分裂してしまった所為で人生が変わった方に既視感を、変わらなかった方に違和感を与える簡単なお仕事だとしどろもどろに伝えたら意外にも西は二つ返事でOKした。自分本位過ぎるから気持ちいいという利益があれば何でも良いらしい奴は分裂しても変わらない稀少な俺たちの共通点だった。下唇を噛む癖と端から見ても未だ下手くそな舌使い。口から口へ運び損ねた唾液が垂れている。

「く、ろの」
「「何」」
「お前じゃ、ない、後ろの奴」
「何」
「当たってる」

違うと云われてむっとした自分の顔を見て少し萎えた。それでも四本の腕から愛撫を受けて未経験の快感にいやらしく喘ぐ西で勃つなとは無理な相談ってもんである。背後から抱き締めた身体を更に密着させてささやかな反抗。親指で突起部を押し潰せばこっちを向いた。睨まれた。それでも今まで無視されっ放しのあいつが西を握った手を速めて直ぐ引き戻す。行ったり来たりする水音に耳を犯されて目を伏せる西の顔は綺麗なのだが如何せん俺に嫉妬する俺は正直醜い。

「俺はね」
「あ、あ、はァ、くろの」
「腕が四本あったら色んなことが同時に出来ると思ってた」
「……あ?ん、なぁ。も」
「いいよ出して。でもな、結局、一つのこと。四本全部でやろうとしちゃうんだよなぁ」

解ってるっつうの、自分だしね。あいつが喋る度に寒気がして必死に気を逸らそうと俺は西の少し産毛が生えて柔らかいうなじを舐めた。丸まった身体が更に縮んで耐えきれなくなった精を放つ。あいつの腹にかかる。俺と俺が近くなる。要領悪いからなァ玄野くんはと掠れた喉が返していた。

「西、挿れたい」
「おい狡ィぞお前だけ」
「じゃんけんしろよ」
「「……じゃーんけーん、」」
「ったく。馬鹿か」

最終的に俺が負けた。勝ったのもまぁ俺だけど。さっきの言葉は誰に云ったものか。考えている間にも西はこっちを向くとその侭俺の首に腕を回して抱き着いてくる。動揺するもあいつが西の腰を掴んだ時に一瞬で冷めた、要するに俺は背面位の支えになるのだ。接合部が丸見えでげんなりして良いのか興奮して良いのか解らない。専ら下半身は後者だった。別の生き物とは良く云ったもんだと思う。

「息吐け」
「っ……い゙」

ゆっくりと手前から圧力がかかる。腕に込められた力が強くなって苦痛の顔が俯瞰で見える。普段のあの位置じゃ絶対見られないから貴重な体験だった。アアいつもこんなんなってまで俺を受け入れてくれていたのかと思うと矢鱈愛しくて頭を撫でる。西は撫でられるのが大嫌いだったけどもそれが俺の最大の愛情表現だった。この捻れた関係が好きだ。それは向こうで腰を振るあいつも同じだろう。

「ぃ、はァ、あう、あ、ん」
「う、あ、にし、ア」
「ひ」

西の内壁を摩擦するのも一番奥を突いているのも俺の筈なのにちっとも気持ち良くはなかった。それでも健全でどうしようもない俺はその上擦る声に喉を鳴らした。西が至近距離で気付いて顔を上げる。張り付いた前髪を分けてやると促音と母音を少しだけ我慢した西の右手に後頭部を引き寄せられる。恋人みたいなキスだった。悦い所を抉られたのか俺の口内で鳴いた。また妬まれるだろうかと一度前を向いたけどあっちはあっちで随分と自分の快楽に夢中だった。中を犯しているのはあいつでも見られているのは俺だと人知れず傲ってみたりして。西の空いた左手が俺の足の付け根を撫でる。次は俺の番だから良いよと断り終わる前にあいつと西は同時にイった。



「起きたの。俺より早かったな」
「ん……お前どっち」
「レイカの方」

頭を掻きながら目を覚ました西にペットボトルをぶん投げてどうにも最近眠れないのだと独り言の様に伝えた。西はふうんとだけ云って隣に座る。二人で寝ている俺を見る。一生見ることがなかった筈の顔だ。自分で云うのも何だがかなり阿呆面だと思うと同時にいつも思うけど阿呆面だなと西が云った。五月蝿ェと小突いた俺は都合の良い頭をしている。

「西」
「何」
「俺どうしたらいい?」
「俺を卒業して巨乳で圧死」
「………………」
「知ったこっちゃないって」

ぱき、とプラスチックの折れる音と喉が鳴る音。溜め息とからからと蓋を回す音。

「俺はレイカを愛せないよ」
「じゃあ尚更俺を卒業しろよ」
「何でそうなんだよ」
「俺にしてることをあいつにしろっつうの、同じだろ?気付けば愛もガキも産まれてるって……ま、カタストロフィー近いしガキは無理だと思うけど」
「だからカタストロフィーって何なん、や、じゃなくて」
「?」
「同じじゃない」
「は?」
「お前の云う通り気付いたら産まれてた、もう定員切れだ」
「…………玄野それは、」
「確かにガキは無理だな。お前と俺じゃ」

自分でも驚く程穏やかな気持ちだった。夜に視る夢の主人公が自分じゃない時の感覚。録音した自分の声を聴く時の感覚。西とのセックスで俺は今日晴れてあいつと決別する覚悟が出来た。俺は多恵ちゃんを始め今まで築いた人との関係を殆ど総て諦めて別の人生を歩き出す。西はその境界だった。ぎりぎりスタートラインの外側でもあった。誰を選ぶかの権利位は持っている筈なのだ、俺は。俺は。

「馬鹿野郎」

西は泣きそうな顔をしながらペットボトルで俺を殴った。肩を抱くと肘で押し返してくる。要領が悪いなァと西の頭の上で笑った。


(110409)


色気なくて
注意表記が申し訳ない





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