鉄パイプを片手にズリズリと歩く

もう侵食された街を何時間歩いたのだろうか

――ヘリが墜落した

“ふぇんりるきょくとうしぶ”に行く途中、化け物の襲来で海に落ちた

操縦士は死亡。生き残ったのは僕だけ

悪運がことごとく強いらしい

潮のせいか髪の毛がサバサバとしていて皮膚もひりひりとする

途中、二本足の白い魚みたいな化け物や地面から生えた化け物と遭遇した

とりあえず鉄パイプでなぐって気絶?している間に逃げた

ひりひりとする皮膚を黒く乾燥した血が覆う

もちろん、化け物の返り血なのだが

『ふぇんりる…きょくとう、しぶ。あらがみ。ごっどいーたー……』

操縦士が言っていた言葉をポツリポツリと呟いていく

隊で支給されていた軍服もボロボロで至る所に切れた跡がある

歩いて歩いて歩いて

先は見えない廃れた街

その先に、ステンドグラスも割れ荒れ果てた教会を見つけた

『一休み、しますかね』

その廃れた教会の中に入り、ゆっくりと腰を下ろす

化け物の気配はない

正直、自分でも何が起きてるかなんて分からない

―――でも、生き延びてみせる

そう、あの人の為にも

自然と口が弧を描く

刹那

《グォオオオ!!!》

『っ…!!』

教会の外にこだまする化け物のものと思わしき叫び声

否、咆哮

教会一帯の空気がズシンと音を立てるように重くなる

しかし次の瞬間咆哮とは別の金属音やレーザー銃の音が広がる

時折聞こえてくる肉を千切る音は戦場での命のやり取りを思い出させ身を奮い立たせる

ぷつぷつと泡立つ肌にこびりついた血が気持ち悪く感じてしまうが、今はそんなことを気にしている暇は無いだろう

しばらくして、外から金属音も咆哮も聞こえなくなった

代わりに聞こえてくるのは人のものと思わしき声

「…おっと…こいつはレア物だな」

「成果は上々って所ね」

「また榊のオッサンが喜びそうだ」

確実に人と思える声だ。ふぇんりるきょくとうしぶの場所を知っているかも知れない

聞いてみようと疲れきって鉛のように重たい腰を上げる





―――だが、もし敵だとしたら?

丸腰に近い自分。相手にはレーザー銃を使う者までいるのだ。遠距離型の相手に鉄パイプ一本で挑むには命が何個あっても足らないだろう

『…自分で探すのが賢明…ですかね?』

先程の声の主であろう人達の気配が完全に消えた頃、ようやく腰を上げる

じゃり、とバラバラに砕けたステンドグラスを靴底で転がす

しかしその刹那

ズシンと自分の後ろに気配を感じる。とてつもなく重苦しい気配

身体を捻りながら後ろへと跳んだ瞬間、今まで自分が居た場所を掻き切る鋭い爪

ヒュンと空気が悲鳴を上げる

もしあの爪を直に喰らっていたら…想像は容易い

顔を上げるとそこには、黒い猫の様な化け物

全身に電力が流れる様な感覚を覚えた。そして一瞬で理解する

――今までの化け物とは格が違う。一瞬の気の緩みが、油断が、死を招くのだと

再びぷつぷつと泡立ち始めた腕に強く力を込め、しっかりと鉄パイプを握り直す

こんな廃材でどこまで足掻けるかなんて高が知れている

でも、簡単には死なない

『…化け猫ちゃん、か…悪いけど、僕はタダでは死んでああげませんよ』

自分の口元は、弧を描いていた
























『はぁ…はぁ…』

―――痛い

一体あれから何時間経ったのか。いや、実際は数十分しかたっていないのかもしれない

身体のあちこちには鋭利な爪によってえぐられた跡がある

軍人上がりだから、身体能力には自信があった、はずだった

海に落ちた疲れや化け物との遭遇での緊張で上手く身体が動かない

むしろ重くなっているのが手に取る様にしてわかる

しかし化け猫はどうだろう

まるで赤子をあやすかの様に僕を遊ぶ。無傷に近い

唯一、片目を潰してやった。なかなかの成果だろうと思った

化け猫は跳躍し大きく片腕を振り上げた

避けなきゃ

分かっても足の反応はない

『ぐあっ…』

ガスッと鈍い音と共に抑え付けられた上半身

バキバキと聞いてはならない嫌な音が全身から聞こえる

―――死ぬ

確かに感じた

苦しい、苦しい苦しい苦しい苦しい苦しい苦しい苦しい苦しい苦…しい?

自分の口元は微笑みの一途をたどる

化け猫は留めとばかりに牙を突き立てようと口を開け―――響き渡る切り裂く音





「大丈夫か?!」

―――?

おかしい、たった今まで目の前には化け猫が居たハズだった

なのに、今目の前には青いフードを被った人間が立っている

『…化け猫、は…?』

「新種のヴァジュラなら、食事をしに逃げた…今のうちにアナグラへ戻るぞ!」

『あな、ぐら…?ばじゅら…なんですか、それ…』

訳の分からない単語を連発する人間。そもそもこいつは敵?味方?

その人間は僕の右腕を掴むと驚いた様に目を丸くする

「……お前っ…まさか一般人か?!」

『僕、は…旧…パル、シニティアリノ軍…第一部隊副隊長…一樹レオ…です、よろしくお願いします』

ニコリと笑うとフルフルと腕を震わしながら左腕を握手の為に差し出す

「あ、ああ。俺はソー…って違う!ゴッドイーターでもないやつが、なんでこんな戦闘区域に…?!」

『ヘリが、墜落…あ、そうだ……ふぇんりるきょくとうしぶ、って何処かわかりますか?…急いで、行かなきゃ』

ゆっくりと横たわっていた身体を起こし、立ち上がる

しかし気が付くと地面とキスをしていた

『あれ…立てない…』

そのまま目の前が暗くフェイドアウトしていく

「……おい。おい?!しっかりしろレオ!」

低いテノールが脳内に響いたあと僕の意識は完全に闇へと消えた――――


























―レオ―

―お前は相変わらず無愛想だなあ―

―そんなんだから彼女出来ないんだぞ?―

―笑え―

―笑った方が、楽しいぞ?―

―ほら、綺麗な笑顔だ―

―そんなお前に俺は―






















『隊長…』

久々に、夢を見た

あの人の、夢

目の前に広がる、真っ白な天井

何処だ、ここ

「目が覚めたか」

ふと、横に目をやれば青いフードの人間……見た目は青年か

褐色の肌に綺麗な、それこそ吸い込まれそうな碧い瞳、僕と同じ銀髪

『……ここは…?』

「ここはフェンリル極東支部…通称アナグラの病室だ」

……ここが…フェンリル極東支部…アナグラってここの事だったのか…

『……助けて下さって、ありがとうございます』

微笑みながらペコリとお礼をする

多少身体が痛むが気にしない

「……ソーマだ」

『……は…?…あ…ソーマ、さん、ですね。よろしくお願いします』

「…気にいらねぇ」

………はい?

「お前のその“笑顔”が、気にいらねぇ」

『…はあ…』

「なんで無理に笑ってんだ」

―――無理に?

『何を言って……それはただ単に僕が気にいらないだけじゃ…』

刹那

おもいっきり胸倉を掴まれる

「じゃあなんでお前は意味のない笑顔を作るんだよ」

無理な体勢に身体のあちこちが悲鳴を上げる

『……離してください』

「答えてみろ」

『離してください』

「答えろ」

『離してください』

「答えろ!」

『…離せ…!』

勢いよくソーマさんの手を払う

反動でソーマさんはよろけてしまった

『…初対面の方に胸倉を掴まれるとは…思ってもみませんでした』

「……てめぇ」

―――パシュッ

扉の開く音

「そこまでだ、ソーマ」

「…チッ…」

些か不快そうに出て行ったソーマさんと入れ替わり立ち替わり入って来た白い服の女性

その女性は“雨宮ツバキ”と名乗った

そしてこれから僕がするべき事を伝えられた

これから僕は

新型ゴッドイーターとして化け物…アラガミと戦うらしい

さっきのソーマさんもゴッドイーターらしい

「……ソーマは気性は荒いが優しい奴だ。仲良くしてやってくれ」

新しい生活、戦いが幕を開けようとしていた


The lunar eclipse of a blue expanse.


(…無性に気になった、レオの笑顔)
((笑顔の何が、いけなかったのだろう))
(畜生…なんなんだ一体…)



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