ご馳走様

あんまり自分に自信がある方じゃない。

だけど、今回の衣装は女性陣に大人気。黒いシャツに黒のパンツ。首にはマフラーの代わりに細いチョーカー。
今までの俺の衣装にはないタイプで、なんだか新鮮。きゃあきゃあと俺を取り囲むミク達に悪い気はしないけど、一時間も写真を撮られたり抱っこを要求されたりし続けていれば疲れると言うもの。

「大丈夫ー?」

ふらふらと女性陣から離脱した俺に声が掛かる。
横を見れば、オレンジの新作衣装に身を包んだレンの姿。

「レンはなんだかんだ言って普段通りって感じだなあ。」

「悪かったな。いつも通りで。」

近寄って蹴りをいれてくるレンはいつも通り、どこぞのアイドルばりのビジュアルだ。

「いつも通り、格好いいよ。」

素直に褒めると、ちょっと照れくさそうにそっぽを向いて、ありがと、だって。
女の子達はそんな仕草にもときめくんだろうな。

「兄さんは、ホストみたいだな。」

「それ、喜んでいいの?」

「嬉しいなら喜べば?」

ホストって事は格好いいのかもしれないけど、チャラそうなのかな。なんだか釈然としなくて素直に喜べない。俺が複雑な気持ちになっているとそれが顔に出ていたのか、レンがくつくつと笑いだす。

「笑うなよ。」

「ごめん。すげえ似合ってるよ。」

レンがにっこり爽やかに笑うもんだから、今度はどぎまぎしてしまった。やっぱりレンはどこぞのアイドルより格好いい。

「それにしても雰囲気変わるなあ。」

「そう?」

「兄さんじゃないみたい。」

体の回りをぐるりと周りながらまじまじと観察するレンを目で追うと、正面に戻ってきたレンのにんまり眼と目があった。

「賢そう。」

それ嫌味だよね。そりゃあ普段はあんまりお兄ちゃんらしい事してないけど。
それならここぞとばかりに大人組の魅力を見せ付けてあげよう。
すっと頭の位置を下げて目線を合わせて、ホストを意識して微笑みながら一言。

「惚れ直すなよ?」

その場の空気ごとレンが固まった。

「・・・やっぱバカ!惚れ直してるに決まってるだろ!」

ヤケクソ気味に言い捨てて後ろを向いたレンの首筋は真っ赤。
なんだ、クリーンヒットしてたのか。
してやったりで満足した俺は小さな背中に覆い被さる。少し高い体温が愛しい。

「兄さん重い!」

「レンへの愛で重いんだよ。」

ウザイト!って暴れてるけど、放してあげない。
惚れ直してるのは俺も同じだからね。

「やっぱカイト兄はカイト兄だな。」


いいところにバカップル禁止!って声が飛んできた。

はーいって返事して一時解散。


たまにはこんな衣装も悪くないな。
俺は一人ほくそ笑んで、チョーカーをちょっと引っ張った。




FIN.



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