behind my back

好きだよ。

歌う後ろ姿を見て呟く。


いつだってあなたは唄に夢中。
恋心なんてきっと無縁。
だけど、俺が後ろ姿にそっと告げるように、あなたもあの子の後ろ姿を見つめている事に気が付いたのは最近。

「カイト兄、こっち見てよ。」

ふと振り返った兄さんにどきり。

「レン。」

優しく笑う兄さんが憎くてつい睨んでしまう、どうしようもない俺。

「そんなに睨まないでよ。」

苦笑いしながら近付いて覗きこんでくる青い瞳。
何も知らなさそうな顔で、人を誑かすだけ誑かして。
気紛れに優しくて、釣った魚に餌は与えない主義らしい兄さんに振り回されているのは俺だけじゃないけど。

「レンは俺のことほんと嫌いだよねえ。」

「別に、嫌いなんて言ってないじゃん。」

嫌いだよね、なんて言いながらも大して気にしてる素振りもない。
それが、憎くて、悔しくて、ぶん殴りたくて。

「お兄ちゃーん。何話してるの?」

「リン。」

ひょいと顔を覗かせたリンの頭をカイト兄が当然の様に撫でた。
ふわふわと長い指に絡み付く金髪が、なんで俺のじゃないんだろうって、思考がよぎる。
最後に撫でて貰ったのはいつだろうか。

「レンに好かれる努力しようかなと思ってさ。」

「ふーん?レンに?」

大きな翠色の瞳が不思議そうに俺とカイト兄を交互に見つめて、何か言いたそう。

「なんだよ。」

「あんたほんと不器用よねー。」

「ほっとけ。」

呆れた声の姉は、ニヤっと笑うとカイト兄の腕に自分の腕を絡ませた。
むろんカイト兄は嫌な顔一つせず、むしろ愛おしむように目を細めている。
見た目だけで言えば、大差ないリンに一瞬自分を重ねてしまう自分自身に吐き気。

「レンもくっついてみれば?ね、お兄ちゃん。」

「え?うん。」

同意を求められて、一瞬狼狽えた兄さんに、ずきっと胸が悲鳴を上げた。
もしかして、カイト兄、俺の事嫌い?

「わ、レン。」

もういっそ嫌がらせになればいいと、ヤケクソになって俺はマフラーを引っ張って首筋に腕を回した。
細い首と青いサラサラの髪からいい匂い。
このまま力入れて窒息させてしまいたい、なんて危ない考えまで過ぎる始末。

「…レンの体温、久しぶりだな。」

「…リンと大して変わらないんじゃない?」

「全然違うよ。」

全然違う、とぽつりと漏らしたカイト兄の片手がそっと背中に添えられる感触。

「私、おじゃま?」

「え、そんな事ないよ!」

「邪魔。」

からかいを含んだ声に、咄嗟に離れようとした体を無理矢理つなぎ止めて、ばっさり言ってやった。

「レン?」

「たまにはいいだろ。」

嫌がられてもいい。だから、たまには困ったり、怒ったりしてほしい。ガキな考え方だとは分かってる。
「好き」で特別になれないなら「嫌い」で特別になりたいなんて。

「言うじゃない!ついでにちゃんと大好きって言ってあげたら?」

「好きとか…。」

嫌われてもいいとか思ってるくせに、好かれてない事が分かってて好きだって言える程強くもない。

「俺はレンに好きって言ってもらいたいな。」

なにそれ。本心では別にどうでもいいくせに。

「好きって言ったら、なんか良いことあんの?」

ひねくれ者な俺は皮肉っぽく笑ってカイト兄を解放した。
大きな瞳が少し悲しそうな色してる。
いい気味。
そう思うのに、俺から目をそらして、まるで俺の代わりと言わんばかりにリンの頭を撫でる兄さんに殺したい程の怒りが湧く。

「お兄ちゃん?」

「ほんと見た目はそっくりなのに、レンは素直じゃないね。」

リンと比べるな。ため息まで吐かれて、遣り場のない怒りが喉元までこみ上げる。何を言えば傷付くだろう。何を言えば泣いてくれるだろう。

「素直なリンがいいなら、俺に構わなきゃいいだろ。」

傷付けたいのに、やっぱり好きだから辛辣な言葉なんて吐けなくて。結局中途半端な嫌味を吐いて背を向ける事しかできない。

「そうだね。」

「っ!」

自分で仕掛けておいて、肯定の言葉に泣きたくなる位傷ついて。
俺はもうその場にいれなかった。
黙って扉へ向かったが、引き留める台詞なんて掛からない。掛かっても止まれないけど。

「好きだよ。」

代わりに後ろから取ってつけたような言葉が追ってきた。
そんな中身のない言葉なんてない方がマシだ。

扉を開けて一度だけ振り返る。
カイト兄が、妙に優しい顔をしていた。

なんとも言えないもやもやを抱えながら扉を潜り抜けて後ろ手に閉める瞬間。


「壊したいくらいね。」


あなたの本心がありえない速度で俺を射抜いた。




「なんだよそれ。」



いつも唄に夢中で。
無邪気で。
リンの事ばかり見てて。


(壊したいくらい、好きだよ。)


俺は、とんだドSに惚れてしまっているんだろうか。










FIN.


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