死の行進


兵士達は麦畑の上を確固たる足取りで、震えたち、もえ上げ、進撃してゆく。

激しい銃声。やまない叫び声。親は子を探し、年寄りは孫を呼んでいる。豚も鶏もあちらこちらで鳴いている。

日本兵は、中国人に最も野蛮で残酷なことを繰り返した。暴力。殺害。レイプ。ペンをもつものは、恋愛はくだらん、と言った。頬には涙が溢れて仕方がなかったそうだ。

いまは全てが閑静だ。

自分は戦争でみた全てを綴ったわけではない。日本兵は無害な中国人を30人を殺した。中には死にきれない老人がいました。苦しそうでした。自分を見るなり、眼で、胸を打てと、訴えてきました。自分は、ただの一発、胸に打ちました。まもなく、老人は死にました。これは、政府によって、伏せ字とされていました。

いろいろ、制限がありました。
戦争の暗黒面を書いてはならない。女を書いてはならない。敵は憎々しく厭らしく書かねばならない。

東洋の凱歌。亜細亜はひとつだと繰り返した。新しい神話の追及だと言った。

捕虜たちは死ぬ。精神教育。日本語教育。病で死ぬのが大勢だった。目に涙をうかべる。ラジオ体操を覚えさせた。捕虜には民族教育。3ヶ月間の缶詰め。武士道を語らせる。歴史が構成されている感じが、教壇にたつと胸にヒシヒシ伝わった。お辞儀で殺される捕虜。

精神教育が終われば、捕虜は解放された。しかし、戦争に駆り出されたのも確かだ。日本はとにかく嫌われていた。

生死を尽くす。

戦局は悪化する。山岳での困難な行軍。補給を無視した作戦は兵士が飢えて死ぬ。野草を食べた。目をあけたまま死んでいる、のだ。作戦は失敗だった。兵士が犬死にしているのだから。ダイナマイトすらをも食べた。由々しきことだったのだ。

肉を斬らしておいて、骨を折るのだ。わたしは原始的な考えが、哀しかった。次の日本は敗戦した。

遺憾千万であった。

公職追放。

わしら紙切れ一枚で戦場で戦わされた。あんたは偉いひとから頼まれ戦場で文を書いた。それだけで金儲けだ。なんて景気のいい話だ。わしらはあんたに騙されて戦ったようなもんじゃ。敗戦の覚悟は、あんなにもあるんやで。

泥沼の中でがむしゃらに情景を書き留めていたら金儲けをしていた。いたたまれなかった。ならば、せめてもの、あの、伏せ字を、綴りたかった。


死体が折り重なっている中で、血塗れで蠢いている年寄り。私を見るなり、殺してくれと眼で訴えているのは、微塵も疑わなかった。私は胸に、たった一発、静かに引き金を引いた。兵士はまもなく死んだ。わたしは重い気持ちで、そこを離れた。


もう、生きすぎました。

そうして、わたしは書斎で、舌を噛んだ。









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