シロップとガム



散りばめられた無数の輝きの中でも、きっと俺の光は淡くて、弱くて、みんなより劣っていて、目立っていなかったはずだった。


少し大きいと思っていた制服も二年目になれば身体に馴染んでいた。ネクタイを結ぶのも早くなったし、上達したと思っている。

将来の為に、俺は学校に通っている。それを念頭に置いて、教室に入る。

一年、この学年の中で過ごしてきたが、今日から一年過ごす空間に知っている顔はなかった。

せっかく出来た友達とは別れた。
あの時はもう、遠い。
また、やり直し。

暗黙で俺の席は分かっていた。教室の窓側の黒板から一番離れた、この教室の一番後ろ。

まだ皆がいるわけではないが、いま、この空間で独りなのはあきらかに俺だけだった。いいわけない、けど、どうしていいのか分からない。自分から動かないといけないのに、でも、動けない臆病者。

なんとかなる、わけないけど、そう言い聞かせて、席に着いて、窓枠の外を見つめる。

笑い声。足音。物音。
グランドは静かそう。
木々が肩を寄せ笑う。

ずっとこの席ではないんだろうが、ここから動きたくない。席替えなんかして、下手に仲良し集団の近くにいきたくない。どうせ弁当は独りなのだから、静かにひっそり食べたい。端っこに、いたい。


「ちょいちょい、」


ボケッと外を見ていたら、ここの空間の内側から声をかけられた。薄っぺらな肩パットを突かれた。そんな気がして、振り向く。


「ここ、俺の席なんだけど」


そう言って、机を指差し、苦く笑った、見たことない、人。

俺と似たような黒い縁の眼鏡をかけていて、ちょっと着くずした制服、落ち着いた短髪。


「えっ、うそ…」
「たぶん、君の席、そこだよ」


その人が指差したのは、今座っているところのひとつ前の座席。そうか、俺は勘違いをしていたのか。


「あ、ごめん、」
「いいよ、」


俺は慌てて立ち上がって、前の席へと移動した。碌に座席表も出席番号も見ていなかった。そんな必要はない名前だと思っていたのだが、そうゆう事なんだろう。

きっとここの空間に来て、先に俺が座っていて、違和感を感じて、きっと、確認した上で、俺にそう話し掛けたんだと悟る。カバンを横にかけて、椅子を引いて座ったら、後ろからも、そんな音がした。


「ははっ、相変わらずお前は一番後ろだなぁー」


何処からかそんな声がして、少しだけ目配せをしたら、「まぁ、そーゆう名字だからな」と、会話が続いた。それは、確実に後ろから聞こえてきた。

俺には関係ないから、意識を飛ばす。また窓枠を見つめて、時間の経過を待ちわびる。


「ねえ、そうだ、」


堅苦しい儀式みたいな、ホームルームが終わって、一息。俺は変わらない景色を眺めていたら、後ろから、肩を叩かれた。


「なに?」
「なまえ、教えてよ」

「え、」
「席前後なんだし、」


この空間で、はじめて喋った人。仲良くなる見込みゼロ。だけどお互いに教え合った。俺と彼の名字は同じようなもので、ただ名前が違うだけ。それだけで、人間性はこんなに違うんだから、可笑しな話だと思う。


「まあ、何かあったらよろしく」
「何かって、」

「授業中とか、テストとか」
「おれ別にそんな…」


そんな会話をしていたら、突然どこかで大きな声で、名前を呼ばれた。慣れない鼓膜は驚く。そうしていたら、後ろの彼が返事をした。


「わりぃ、行くわ」


彼は「なんだよー」と言いながら、ガタンと立ち上がって、どこかに行った。俺は、ぎくしゃく、体勢を前に向き直す。


散りばめられた無数の輝きの中でも、きっと俺の光は淡くて、弱くて、みんなより劣っていて、目立っていなかったはずだった。でも、その僅かな光が小さな変化を見せようとした。









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