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恋愛ものであると同時にサスペンスホラー。
パンフレットによると『ロマンティック・ホラー』というジャンルらしい。

五月から上映されるというその映画の試写会は、その内容からか、若い女性の姿が多く見られた。
実際に公開された時には、カップルで観に来る客も多いのではないだろうか。

「まあまあでしたね」

試写会が終わり、近くのカフェに聖羅を誘った赤屍は、紅茶のカップを傾けながらそう言った。

GW初日という事もあり、窓の外のスクランブルは普段の休日以上に混みあっている。
午後からは天気が崩れるといっていたが、陽射しはまだ汗ばむ程に強かった。

「結構面白かったですよ。最後のどんでん返しにはびっくりしました。まさか、犯人があんな……」

赤屍に応えて聖羅も感想を述べる。
膝に広げた試写会用のパンフレットには、不安を煽るような真紅の海を漂うフェリーの写真とともに、『赤い海』とタイトルが印刷されていた。
赤屍がクスリと笑う。

「楽しんで頂けたのなら何よりですよ。お誘いした甲斐がありました」

「はい、凄く楽しかったです。有難うございました!」

殺人鬼と一緒に、サスペンスホラーの試写会へ。
考えてみれば、シュールな話だ。
依頼人から貰ったのだという試写会のチケットを手に、「今度の土曜日なのですが、ご一緒に如何ですか?」と赤屍に誘われた時には正直戸惑ったが、今は来て良かったと思う。
聖羅は優雅に紅茶を飲んでいる目の前の男を観察した。
本当に不思議な男だ。
底が知れない。
医師として大勢の命を救ってきたであろうその手で、おびただしい数の人間を切り刻み、命を奪う男。
それが今は、土曜日の午後の明るいカフェで、至極優雅な仕草でカップを傾けている。
無論、今日はいつもの黒衣ではない。
細身のスーツが、長身で引き締まった体躯に本当に良く似合っている。
試写会の会場でも、周囲の女性達の視線を一身に集めていたくらいだ。

「この後はどうしましょうか。新しくオープンしたばかりのビルもありますし、覗きに行きますか?」

「えっ?」

試写会は終わったのだから、てっきりこれで帰るものだと思っていた聖羅は、目を丸くして赤屍を見た。
何気なく摘まんでいたストローから指が離れる。

「勿論、買い物に限らず、聖羅さんが行きたい場所があればお連れしますよ。少し足を延ばして、銀座か台場に行くのも良いかもしれませんね」

「え、あ、いえ…そんな気を遣わないで下さい! 私はならもう帰りますから」

「何故です? デートはこれからでしょう」

「デ──!!??」

青くなったり赤くなったりしている聖羅を楽しげに眺めながら、赤屍は瞳を笑ませた。

「そう、デートですよ。ただ映画を一緒に観るだけのつもりならば、週末をともに過ごそうなどと誘ったりはしません。そして、貴女もそれに応じた──これをデートと呼ばずに、なんと呼ぶのです?」

「そ、そんな…!」

まるで詐欺か何かの手口のようだと思った。

「ちゃんと貴女に合わせて『映画とお茶』から始めたのです。今更、嫌だなどとは言わせませんよ。そうしようと思えば、もっと強引なやり方も出来たのですから、ね」

逃がしませんよ
そう囁いて、赤屍が微笑む。
何処かで聞いたような台詞だと思いながら、聖羅はただ、ぶるぶる震えるしかなかった。
まさにRomanticなhorrorである。



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