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退屈な仕事ですよ、と赤屍は言った。
事実、そうでなければ聖羅を連れて来たりはしないだろう。
危険があるにしても、それは赤屍にとってはほんの些細な、それこそ『退屈』と感じる程度のものであるはずだ。

今宵の依頼人は、会員制高級クラブのオーナーなのだという。

「そのクラブのフロアシンボルとなる彫刻が、少々値の張る品でしてね。それを無事に送り届けて欲しい。そういう依頼です」

ざっと流れを説明してみせた赤屍は、いつものロングコートではなく、上等な燕尾服を身に纏っている。
極力『裏』の人間が出入りする様を見られたくないというオーナーが用意した物で、卑弥呼も聖羅も同じくカクテルドレス姿だった。

「話はわかったけど…こんな格好じゃ何かあった時に邪魔でしょうがないわ」

深くスリットが入った純白のドレスを着た卑弥呼が、腰に手を当てて憤慨して見せる。
文句を言う割にはちゃんと着ているところを見ると、実は満更でもないのだろう。

「でも、よく似合ってるよ。卑弥呼ちゃん」

聖羅は素直に卑弥呼を褒めた。
小麦色の肌に白いドレスが映えて、異国のお姫様のようだと思ったのだ。
卑弥呼の頬にさっと血がのぼる。

「な、何よ、急に。これは仕事なんだから! 似合ってるとかは関係ないでしょ」

「卑弥呼さんは素直じゃありませんねぇ──聖羅さんこそ、本当にとても良くお似合いですよ。まるで人魚姫のようだ」

赤屍の後半の台詞は、鮮やかなエメラルドグリーンのマーメイドラインのドレスを着た聖羅に向けられたものだ。
クスッと笑う彼も、端正な顔立ちや黒髪が燕尾服のノーブルな黒と相まって、紳士そのものといった風情である。

「有難うございます」と嬉しそうに笑った聖羅の手を取り、赤屍が歩き出す。

「さあ。そろそろ出発しましょう。今日ばかりはトラックという訳には行きませんからね。移動はリムジンになります」

「ほんと、豪勢ね。蛮が見たらやっかむでしょうね」

赤屍にエスコートされて、黒光りする車に乗り込んだ聖羅に続いて卑弥呼も車内へと身を滑り込ませる。
長い車体の中は革のソファになっており、赤いベルベットの内張りが全面に施されていて、非常にリッチな雰囲気だ。
聖羅は赤屍と卑弥呼に挟まれるようにして座席に座った。

「ねぇ、これって冷蔵庫よね。シャンパンクーラーだっけ? 飲んでもいいのかしら」

「オーナーは好きなように使って構わないと仰っていましたよ」

氷の詰まったケースを開いた卑弥呼が、中からシャンパンの瓶を取り出し、細長いグラスに注いで聖羅に渡す。
何だかんだ言って、今回の依頼を一番楽しんでいるのは卑弥呼のようだ。

「さ、乾杯しましょ」

同じように赤屍にもグラスを渡し、自分もグラスを持って卑弥呼が言った。

「クス…乾杯」

「乾杯!」

退屈だなんてとんでもない。
今夜は楽しい一夜になりそうだった。



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