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お節介な叔母の紹介で、見合いをする事になった。
どんなツテを辿って見つけたものやら、相手は、新宿で外科医をしている男なのだという。
医者とプライベートで話すのは初めて。
懐石料理も初めて。
当然、見合いをするのも初めてなので、聖羅はこれ以上ないほど緊張しきっていた。
場所は懐石料理を出す料亭。
舞台のように高く作られた座敷の下には、人工の池があり、高級そうな鯉が色鮮やかな姿を覗かせて泳いでいる。
水の匂いと森の匂いに交じる、品の良い香りは、香か何かだろうか?
叔母から型通りの紹介と簡単な挨拶を済ませると、「後は二人でごゆっくり」などと言って、叔母はさっさと席を外してしまった。
去り際に「しっかりね!」と耳打ちして背を叩くのも忘れない。
その様子を見ていた男が、クスリと小さく笑みを漏らしたものだから、聖羅は項まで赤く染めてうつむいた。

「すみません…叔母が無理を言って」

たぶん叔母が無理矢理彼を見合いに連れだしたのではないかと疑っての言葉だ。
新宿の外科医とあらば、見合いなどする必要がないくらいモテるはずだから、今日の席は、彼にとっては不本意なものではないかと思ったのである。
ところが、男は更に微笑を深くすると、柔らかい声音で言った。

「いえ、見合いの席を設けて頂くようお願いしたのは、こちらですから」

「……………は?」

「貴女の叔母さんには感謝していますよ。こんなに早くお会い出来るとは思いませんでした」

聖羅は顔を上げて、にこにこと微笑んでいる男をポカンと見つめた。
名前──名前は、そう確か、赤羽蔵人といったはず。
おずおずと名前を呼んでみる。

「あの…赤羽さん?」

「はい」

「このお見合いは、叔母が無理を言ってお願いしたんじゃないんですか…?」

「ええ。私からお願いした事です。是非、聖羅さんを紹介して頂きたいと」

以前、S中央病院に来た事があるでしょう、と赤羽に言われて、聖羅は記憶を探った。
普段行く病院の名前ではない。
自分がかかった覚えはないから、誰かの見舞いか何かで行ったのだろうか?
そこで、はっと思い出した。
S中央病院と言えば、以前、叔父が入院した病院だ。
叔母を手伝って洗濯物を取りに行ったり、何度か見舞いに訪れた事がある。

「叔父が入院していて、お見舞いに行った病院です」

「貴女とはそこで会っているのですが──聖羅さんはきっとご存知ないでしょうね。廊下ですれ違っただけですから」

流石にそこまでは覚えていない。
こんな美貌の男ならば、一目見たら忘れるはずがないから、きっと本当にすれ違っただけなのだろう。

「…すみません…」

「謝る必要はありません。私が勝手に一目惚れしただけなのですから、ね」

赤羽は聖羅に頷いてみせた。
緋色の錦鯉よりも赤くなった聖羅の顔を楽しげに見つめながら。



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