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「あの…」

おずおずと声をかけると、美貌の男は優美な仕草で首を傾げ、それからふっと微笑んだ。

「ああ、これは失礼しました。私は赤屍蔵人と申します」

優しげな声音と笑顔で告げられる。
さっきの医者とはえらい違いだ。
赤屍のほうがずっといい、と聖羅は思った。
その赤屍が、近くのワゴンを片手で引き寄せて何かを手にとった。
注射器だ。

「そのまま楽にしていて下さい」

手慣れた動作で聖羅の腕に消毒を施し、肘の内側の血管に針を打ち込む。
痛みはまったくなかった。
注射針が細かったせいもあるが、きっと赤屍が上手いのだろう。
注射器をワゴンに置いた赤屍が、いい子いい子と聖羅の頭を撫でる。

「……あれ?」

またもや眠気に襲われて、聖羅は緩慢なまばたきをした。

「先生…今のは──」

「睡眠薬ですよ。運ぶ間は眠っていたほうが楽ですからね」

「…運…ぶ…?」

もう目を開けているのが辛い。
今にも暗転しそうな視界の中で、赤屍が黒い帽子を被るのが見えた。
──この男は医者じゃない。
冷たい手で心臓を掴まれたように、ひやりとした。

「何も心配はいりません。大切にします」

甘く優しい声が囁く。

「初めは少し怖いかもしれませんが──大丈夫、直ぐに慣れますよ」



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