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傾いてなおも苛烈な陽光に照らされた地面は、滴り落ちた血を吸い込み、瞬く間に乾いていく。

「ちょっと、赤屍──!」

「ご心配なく。殺してはいませんよ」

眉をひそめた卑弥呼に、赤屍は冷淡な声で言い返した。
その白皙の美貌には汗の一滴も見当たらない。
もしかすると、暑さ寒さを感じないのではないかと疑ってしまうほど、夏も冬も変わらぬ黒衣で仕事に赴く彼を、陽炎がたちのぼるような真夏の街で見かけたならば、白昼夢を見たのかと思うことだろう。
──あるいは、黒衣の死神を見てしまったのだと。

「それよりも、依頼品をこちらへ」

白い手袋に包まれた手を差し出した赤屍に、卑弥呼は眉をひそめたまま『依頼品』を渡した。
もう片方の手には、まだ鮮血を滴らせているメスが握られている。
しかし、先ほどの言葉が嘘ではない証拠に、地面に倒れ伏した男はぴくぴくと微かに動いていた。

「どうすんのよ、これ」

「放っておきましょう。その内、通りがかった誰かが救急車を呼んでくれますよ」

すたすたと歩き始めた赤屍に軽く肩を竦めて、卑弥呼もその後を追う。
まあ、確かに、あの赤屍に挑んだ奪い屋としては、殺されずに済んだだけましなのかもしれない。

「しかし暑いわね…馬車さん、冷房入れないの?」

「プロの運び屋がこのくらいで音を上げるんか?今日は涼しいぞ」

ハンドルを握る馬車は、振り返らずに不敵な笑みを浮かべて言った。
赤屍と卑弥呼を回収した彼は、これから引き渡し場所へと向かう途中なのだ。
大型トラックの車内は、蒸し風呂とまではいかないが、かなり暑い。
それでもやはり涼しげな風情を崩さない赤屍を見て、卑弥呼はうんざりした顔になった。
馬車は単にタフなおっさんというだけだが、間違いなくこの男は人間じゃない。

「何?メール?」

携帯を取り出して画面をチェックしている赤屍に尋ねる。

「ええ」

仕事関係かと思えば、どうやら違ったようだ。
赤屍の顔には、仕事の最中に見せる寒気が走るようなものではなく、実に人間らしい嬉しそうな微笑が浮かんでいる。

「今夜の夕食は、ナスとトマトのスパゲティだそうです」

「…………、そう」

トマトと聞いて、さっき赤屍が“生かさず殺さず”程度に斬り刻んだ男の姿を連想した卑弥呼は気持ちが悪くなったが、赤屍は嬉しそうににこにこしていた。



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