「路銀…そうですね、先立つ物がないと旅出来ないですもんね…手持ちは僕の準備で殆ど使っちゃいましたからね…」

共同の財布を開き中身をチラ、と見やると閉じため息をつく。

「俺もここの街で何か護衛の仕事ねぇか探してくっかな…」

帝人の様子を見、静雄は頭をガシガシと掻きながらため息をついた。

「僕にも何か出来る事ないかな…」
「お前は良いんだよ。俺にはこれしか無いからな…。」

自嘲気味に笑い視界に酒場を見つけた静雄は立ち止まった。

「帝人、ちょっと酒場で仕事ねぇか聞いてくる。…ここで待ってるか?」
「あ、いえ、僕も行きます!」

そう言い、二人揃って酒場へと入っていった。

酒屋の張り紙を静雄が眺めている間、帝人は沢山の客でひしめき合ってるテーブルや無人の舞台をぼんやり眺めていた。
すると、カウンターの方から押し殺した声でマスターと店員が何か言い争ってる様だった。

「踊り子が来れなくなった!?どうするんだ、客は待ってるんだぞ!」
「きゅ、急に事故に巻き込まれたとかで…」

(僕の、出来ること――)

「あの、すみません!…僕に、踊らせて下さい!」


静雄が粗方張り出された仕事の張り紙を見終え、後ろに居るはずの帝人に話しかけようと後ろを振り向いた。

「待たせたな、帝人。―って帝人!?」

すると。帝人は先ほどの服装から一転、見慣れぬ派手な色の、だが清楚なデザインで薄いヴェールを纏った、まさに踊り子の衣装に身を纏っていた。
「帝人…それ…」
「すみません、静雄さん勝手に…何か人手が無かったみたいなので…。そんなに時間かからないと思うので、静雄さん…見てて下さいね?」
そう言うと帝人は軽快なステップで舞台へとあがっていった。
シャラン、と服とヴェールの先についた鈴が涼しい音を鳴らす。それだけで不思議と客は水を打ったように静かになった。
そこに気づかぬ内にギターの演奏が始まり、帝人の舞いが始まる。

しなやかに舞う帝人のその姿は一種の神へと捧げる儀式の様だった。ふわり、ふわりと舞うその姿を誰も目を反らすことが出来なかった。

(踊る事は大好きなんです。・・・でも、これで良いのか分からなくて・・・)

シャラン、

(だから、僕はここに居るだけじゃダメだと思うんです。・・・だから。)

「これが、お前の・・・」

ああ、と自然に静雄の口元には笑みが浮かんでいた。


客達はいつ音楽が止んだのかも、舞が終わったのかもしばらく理解出来なかった。
しばらく呆然としていた客達はぽつぽつと我に返り拍手の音もだんだん大きくなっていった。

「今日はありがとうね、嬢ちゃん。…君さえ良ければずっとココで舞台たってくれてもいいんだけどねぇ…」

マスターから日当を受け取り苦笑を浮かべ丁重に断りを入れる。

「すみません。…旅の途中なので。」
「そうか…残念だな。道中、気をつけてね。」
「ありがとうございます。」


そう言い店を後にし、静雄の方へと駆け出した。

「ごめんなさい、静雄さん!待たせてしまって…!」

「…いや、別に構わねぇよ。…にしても、凄かったな、あんなにすげぇとは思ってなかった。」
息を切りながら近づいてきた帝人の頭をガシガシと撫でる。帝人は気持ち良さそうに静雄に笑みを向けた。

「そうですか?…でも僕にはコレしか無いから…嬉しいです!!」

てれ臭そうにそう言い、静雄の横に並び連れ立って二人は宿屋への道を歩いて行った。







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