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秋空を見て思い出す


学生時代はお金が無いから、なんて理由はもちろんだけど食の好みとか気を使う事なくガヤガヤ出来る店の雰囲気だとかで、友達と行くにしても彼氏と行くにしても外食と言えばファミレスやファーストフードで済ませていたし、大学に入ってからは少し大人になった気分でお洒落なカフェを好む様になった。
そんな私だったが働き始めてから頻繁に通う様になったのは昔ながらの定食屋だったり、食の好みもジャンクフードからイタリアン、イタリアンから和食へと変化しつつある。

そんな訳で今日も訪れた定食屋。いつもは肉じゃがとひじきの煮物がセットになったものを頼んでいた(これがとてつもなく美味しいのだ)が気分を変えて焼き魚定食を頼む。
注文してから待つ事ほんの少し(ここの定食屋はラーメン屋の様に早い・安い・美味いの三拍子が揃ってる)やってきた焼き魚定食。ご飯からもお味噌汁からも、メインである焼き魚からも出来立ての湯気が上り食欲をそそられる。


「いただきまーす。」


手を顔の前で合わせてから焼き魚の身をほぐして付け合わせの大根おろしと一緒に口に運んで間もなく、私の口の中には衝撃が走った。


「何コレ!」
「何?そんなに美味いの?」
「そうじゃなくて!この大根おろし味がしない!」
「はっ?」


付け合わせの大根おろし。茶色く色付いたソレは私の口の中で衝撃を与えた。


「いや、どう見ても味付けてる色してるでしょ。」
「そうじゃなくて甘酸っぱく無いんだってば!」


我が家の大根おろしは醤油と酢、それから多めの砂糖で味付けしてる。その為、大根おろしと言えば口の中いっぱいに広がる甘酸っぱさは当たり前で。この定食に付け合わせられていた大根おろしは出汁醤油のみでさっと味付けたもので。
予想というか当たり前だと思っていた味が口の中に広がらない事に戸惑いを隠せない。


「いや、普通大根おろしってそこまで甘酸っぱくないでしょ。」
「うちでは甘酸っぱいのが普通だったもん!ってゆうか大根おろしってそうゆうもんだと思ってた!」


そんな私に対して「はいはい。」と流す様な相槌を打って真哉は自分の鯖煮定食を食べ進める。
それでも尚「なんでーなんでー」と言い続ける私の様子に痺れを切らしたのか「はぁ」と溜め息を一つ溢した真哉は自分の鯖煮と私の焼き魚の皿を交換し始めた。
そんな真哉の行動に付いて行けずぼんやりと黙ったまま見つめ続けると、今度は焼き魚から綺麗に骨を取っていく。何度も一緒に食事をしてきたが黙って真哉を見つめる事なんて一度も無くて。箸の持ち方とか難なく魚の身と骨を分けていく手付きとか、あまりにも綺麗で思わず見とれてしまう。
あっという間に皿の上には無駄無く分けられた魚の身と骨。その身と大根おろしを一掴みし口元に運んで、咀嚼を始める真哉。


「この魚、美味いな。」
「………って言うかソレあたしの!」
「オマエがガタガタ言うから交換してやったんだろ。」
「頼んでないし!」
「飯食ってる時くらい静かにしろよ。その鯖煮も美味いからまずは黙って食え。」


そう言って私の焼き魚を食べ続ける真哉。言われるがまま鯖煮を口にすると、これもまた美味しくて。


「そっちも食べる。」


箸を伸ばし皿の上で綺麗にほぐされた身と大根おろしを頂く。さっきは大根おろしへの衝撃が強すぎてまともに味が分からなかったが、こちらもとても美味しかった。


「真悠子、行儀悪い。」
「行儀も大事だけど楽しく食べるのが一番でしょ。ってゆうか真哉って食べ方綺麗だね。マジマジと見たの初めてで今まで気付かなかった。」
「オマエとは育ちが違うからな。」
「育ちが違っても一緒に居たら真哉もそのうちあたしみたいになるんだから。」
「…魚も上手く食えないうえに大根おろしでギャーギャー言う様になるのかよ。」
「ちょっ、大根おろしの件は認めるけど魚が上手く食べれないってどうゆう意味よ?」
「オマエはこんな風に出来る訳?」


そう言って指差すのは相変わらず綺麗に身と骨が分かれた焼き魚。確かに私はこんなに綺麗に魚を食べた記憶が今だかつて無い。骨から身を剥がすのも上手く出来ないし食べてる途中で仕分けがめんどくさくなるのだ。


「………出来ません。」
「だろ。だからオマエが俺みたいになれよ。」
「なんか偉そうでムカつく!」


二人でワイワイ言いながら焼き魚と鯖煮を分け合う。肉じゃがとひじきも良いが焼き魚も今後の注文サイクルに追加するとしよう。

そうだ、今度真哉にも我が家特性の大根おろしを振る舞おう。と私は食べ慣れないけどこの焼き魚とは相性が良い大根おろしを食べながら思った。



雲の色と形はまるで
「大根おろしと魚みたい」なんて言ったら君は呆れるかな。


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