隣で眠っているゼロスはは、なんの不安もなく幸せそうに眠っていた。
以前の彼なら考えられなかっただろう。
むしろ、自分も彼とこうなることなんて考えもしなかった。
無性にくっつきたくなった。
綺麗な胸板に顔を埋めると、彼の香りに目眩がする。
「……ゼロス、起きてるんだろ?」
「いや、おれ様寝てる」
「嘘が聞いて呆れるよ」
もぞもぞとベッドを出ようとするが、腰に腕を回されて動けなくなる。
「あと5分くっついてて」
ゼロスは離す気などなく、腕は回されたままだった。
また彼の匂いに、くらりとした。
「ゼロスは良い匂いがするね」
香水の香りではなく、ゼロスの香り。
「そりゃあ、おれ様は男のフェロモンを出しまくってるからな」
「……そうかもね」
胸板に鼻先をこすりつける。
「おいおいおい。どーしちゃったのよ」
しいなを離して、ずりずりと下にさがって視線を合わせる。
「な、なんでもないよっ」
「なんかあんだろ?言ってみろって」
「笑うから嫌だね」
ふいっと顔を逸らす姿が可愛くて、顔が綻ぶ。
「笑わねーって」
「顔がニヤけてるよ」
「嬉しくてニヤけてんの。言わねーと、どうなっても知らねーぞ」
耳元で低く囁かれた声と同時に、腰に回っていた手が、ゆっくりと太ももをなぞる感覚が伝わってくる。
「わ、わかったよ!!言うから離しとくれ」
ゼロスの手を掴み引き剥がそうとするが、指を絡められた。
「あんたの……ゼロスの香りに、どれぐらいの子が惑わされたんだろうなあって思っただけさ」
「なーに?ヤキモチ妬いてんの?」
「そんなんじゃないさ。気になっただけ」
ゼロスの肩をやんわりと押して、起き上がってベッドの端に座った。
背を向けたしいなの表情は読み取れないが、細い背中には、切なさが宿ったのが見えた気がした。
「おれ様もしいなの匂い好きだぜ。そこら辺のキツい香水とは違う。なんつーか、自然な感じつーか、なんつーか…」
「……ばか」
蚊の鳴くような声で言うと、しいなは立ち上がって部屋から出ていった。
パタリと閉じられた扉から、ふわりと優しい香りが漂った。