「なー。しいな。今日クリスマスだろ?」

「そうみたいだね」

「なんでオコタで鍋?」

世の中のカップルは今ごろレストランだの夜景だのそれはそれはロマンチックな聖夜を過ごしているだろうクリスマス。

「鍋が簡単で良いだろ?」

いや、そうなんだけど。
作るほうの身を考えれば切って煮込んで後片付けも少ないってことは良いことなんだろうけど!

「クリスマスだからチキンも入ってるじゃないか」

確かに、鶏から出る出汁は上手い。って、そうじゃないんだ。
「クリスマスってもっと、こう、ゴージャスなおれ様に相応しくゴージャスにしいなと過ごしたいなーなんて……」

ああ、しいなちゃんそんな目で見つめないで。心折れそう。

「あ、ガス切れそう。そこの棚に入ってるから取って」

ボンと小さな音を立ててガスコンロの火が消えた。

「へーへー。よっこらしょ」

「ゼロス、あんた、よっこらしょって、クスッ」
「うるせー。オコタから出るのは命懸けなんだよ。ほら、ガス」

「大袈裟なヤツだね。ありがとう」

カチっとガスをセットしてつまみを回すとガスコンロに火が灯る。
クリスマスキャンドルとはだいぶ掛け離れている。

「だいたい、プレゼントもいらないって物欲なさすぎだろ」
「アンタが欲望だらけなんだよ」
「でひゃひゃひゃ。確かになー。しいなポン酢くれ」

「はいよ」

トポトポとポン酢を注いでると、しいながうどんを入れ始めた。うん。悪くない光景だ。なんか素敵な奥さんって感じ。

「顔、ニヤけてる」
「しいなが可愛いのが悪い」
「コタツ仕舞うよ?」
「すみませんでした」
「ばか」

コタツを開発した人に表彰状を送りたい。いや、マジで。

「うどん、良いよ」

「ん」

うどん掴みにくいんだよな、途中でポチャンしたらはねて熱いし。
「ほら、貸しな」

そんなことを考えていたらしいなの腕が伸びてきて、どうやらよそってくれるみたいだ。

「はいよ」
「おー。さんきゅーな」

ツルツルとうどんを啜っていると不意にしいながこんなことを言った。

「毎年ゴージャスにやるより、毎日こんな風に過ごせるほうが幸せだよ」

鼻からうどんが出てくるんじゃないかと思うぐらい、盛大にむせた。
くそっ、涙でてきたぜ。


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