遠回りの正解

今日は、とてつもなく寒い。
朝見た天気予報では、今年一番の寒さだとかで。
夕方になって雪こそ降らないけど、朝より寒い。

同級生の女の子たちはスカートの下にジャージを穿いて帰っていたけれど、あたしには無理。
だって、なんか……正直、可愛くない。

タイツ穿いて、レッグウォーマーもして、マフラー、手袋で頑張ってる。
どこの誰だい。いったい、女子の制服はスカートだって決めたやつは!

「はぁーいー、そこの寒そうなカーノジョー。センセーとドライブしない?」

「怪しい人について行ってはいけませんって知らない?」

開けられた車の窓からは暖かい空気が流れてきて、誘惑されるには十分だけど。

「残念。怪しい人ではありません。しいなちゃんの化学のセンセー兼ダーリンでしたー」

いちいち癇に障る教師だ。

「あんたのハニーになった覚えは元素記号と同じぐらい記憶にないよ」

「えー。じゃあ、覚えの悪いしいなには特別授業ってことで、早く乗れ」

ニコニコ笑ってるけど最後の五文字が笑ってない。
どうやら地雷を踏んでしまったみたい。

ドアを開けて乗り込めば暖房が効いて暖かいけど、あたしにとっては地獄の始まり。

走りだした車の行き先は、もちろんこの教師の家なわけで。

「んじゃ、今から家に着くまで問題をだす。間違った回数だけキスな」
「ムリヤダありえない」

さっきまでの寒さはどこへやら。
手袋とマフラーは乗った時に外したのに、頬が火照ってしまう。

「ダーメー。お勉強も出来て、しいながおれ様のって確認できる。これこそ一石二鳥」

「じゃー。第一問、水素は?」
「H」

「まっ、覚えてて当然だな。塩化ナトリウム」
「NaCl」

これって前にでたテストと一緒……?

「硫化鉄」

あ、ほら。あたしが間違ったとこ。

「FeS」

「ちゃんと、復習したみたいだな」

左手が伸びてきて、頭を撫でられた。

「うっさい。ちゃんと運転しな」

「へいへい。硫酸」

「あーあー硫酸ねー」

「はい、タイムオーバー。キス1回目ゲット!」

運転しながらガッツポーズ。周りから見れば、なんだコイツ的な。

「正解はH2SO4でしたー。ちゃんと授業で教えました。この前のテストからばっかだと思うなよ?」

横顔が、ざまぁーみろと表情で語っていたから、ブン殴ってやろうかと思ったけど運転中だからやめた。

それにしても、後どのくらい続くのか。
いつもなら20分もすれば着くのに、今日はやけに信号に引っかかる気がする。
って、まさか……。

「ちょいと、ゼロス。あんたまさか、わざと遠回りしてんじゃないだろうね?」
「だってぇ、早く着いたらドライブデートじゃないもーん。はい、次の問題」

「早く帰れ変態アホ教師!」
「えーっ!物足りないからダメー。もっと間違えてくんなきゃ帰れねーなー」

その時の笑顔と言ったら……殺意が芽生えるぐらい良い笑顔。

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