無意識
「イリア。唇の皮、剥いちゃだめだよ」
無意識に触れていた唇に、ルカの細い指によって遮られた。
「はっ?……あぁ、分かってるんだけど、ガサガサが気になって仕方ないのよ」
この時期は空気が乾燥していて、乙女には辛い季節なのだ。
肌だってちゃんと保湿しなければ鮫肌になるし、部屋を加湿しなければ喉が痛くなる。
現に今、ルカに指摘された唇だってそうなのだ。
「リップクリームは?」
「……忘れた」
「あー。だいぶ荒れてるね」
ルカの指先が色気の欠片もない唇を丁寧になぞる。
「なっ、に…すんのよ!!」
必然的に近くなる顔に、息が詰まった。
「診察?」
「あんたとお医者さんごっこなんてジョーダンじゃないわよっ!」
蹴っ飛ばしたら、見事に鳩尾にクリティカルヒット。自業自得。ルカが悪いに決まっている、と言い聞かせて痛みに悶えるルカなんて見て見ぬフリ。
「あたしのプルプル唇がこんなガッサガサになってんのは、ルカのせいでもあるのよ?」
復活したルカの鼻先をビシッと突きつける。
「ゴホッ…ゴホッ…僕は何もしてないよー」
「ルカがベロベロ舐めるのが悪いの!」
「ベロベロって、もうちょっと色気のある言い方を……」
「うっさい!リップクリーム塗っててもベロベロ舐められる度に効果がなくなるのよ。分かってる?返してよ!あたしのプルプル唇を!」
「ご、ごめん。でも、イリアとキス出来ないなんて耐えられないよ?」
小首を傾げて可愛さをアピールしても、言っていることが可愛げの欠片もない。
「知らないわよ、我慢ってものを覚えなさいよ」
「今まで我慢してきたよー。それに僕は、プルプル唇だからキスしてるんじゃなくて、イリアが好きだからキスするんだよ」
ちゅっとわざと音を立て、ついでにペロリと舐めて唇を離した。
「ほら、唇が荒れてるのなんか気にならないでしょ?」