ドルチェの誘惑
……ない。
冷蔵庫のどこを探しても、アレが見つからない。だけど、犯人は1人しかいない
「イリア、冷蔵庫の1番上にあったプリン食べた?」
リビングのソファで、愛読のファッション誌を眺めてる犯人であろう彼女に聞いた。
「食べたわよ?隠されてるの見つけると食べたくなるのよねー」
そうだ、彼女はこういう性格なのだ。
まあ、そんなところも可愛いけど。
「食べたの何時頃?」
「あんたが帰って来るちょっと前」
イリアの向かい側のソファに座ったけど、相変わらず雑誌とにらめっこ。
「ねぇ、お風呂入ってきたら?効果が出る前にさ」
ようやく顔を上げたと思ったら、すごい勢いで睨まれた。
「どーゆー意味よ?効果って」
ここでネタバレしよう。やっぱり被害は最小限が良いに決まってる。
「イリアが食べたの媚薬入りプリンだよ。しかも時間差で効いてくるやつ」
「なんてもの食べさせてんのよ!バカ!信じられない!」
「わっぷ」
投げつけられた雑誌が見事に顔面直撃。
「僕が食べさせたわけじゃないよー。せっかく隠しておいたのに、イリアが食べちゃったのが悪いっ……」
待って、待って、その手に持ってるお菓子の缶が恐いんですけど!
「ご、ごめんね!友達がどーしてもって言って押し付けられちゃったんだよ!すぐ捨てようと思ったんだけど、ほら、やっぱり食べ物を粗末にするのはダメだしさ」
これは本当の話。そういうのに興味がなかったわけじゃないけど、いざとなると気が引ける。
「だいたい!隠しておくなんて、あたしが食べるに決まってるじゃない!狙ってたんじゃないの!?」
そりゃ、真っ向勝負より確率は上がるかなーとは思ったけど、まさかこんなに簡単に引っかかってくれるとは。……なんて死んでも言えない。
「あーっもーっ!どーすんのよ!?」
「どーするって、言われても方法は1つしかないよ?」
僕の一言で観念したのか、イリアは無言で立ち上がると、バタン!と大きな音を立てて、リビングの扉を閉めた。
行き先はバスルーム。