「おかえりなさーい!ケーキ!」
「えっ?僕は?」
玄関を開ければ、イリアが僕ではなく僕の手にぶら下がっているケーキの箱に飛びついた。
「あっ、おかえり。早く着替えてきなさいよ」
僕から奪ったケーキに頬ずりしながらイリアは、さっさと行ってしまった。
着替えてリビングに戻れば、ティーセットとお皿とフォークが用意されていた。
そして、テーブルには今夜の主役であるケーキが堂々とその存在を主張していた。
「おっそーい。どんだけ着替えに時間かかってんのよ」
「5分もかかってないと思うけど……」
超特急で着替えた努力は認めてもらえず、ソファに座った。
「開けていい?」
「どうぞ」
はしゃぐイリアを見つめて、買ってきて良かったと、心底思った。
「きゃっー!会いたかったわサンタさん!よくここまでサンタさんを連れてきてくれたわねトナカイたち!」
二人で食べきれるほどの小さめのホールケーキに、砂糖菓子のサンタとトナカイ、そしてメリークリスマス!と書かれたチョコレートのプレートがイチゴと一緒にデコレーションされたケーキにしたのは正解だったみたい。
お皿に切り分けられたケーキが乗せられたけれども、サンタさんは僕の所へはやって来なかった。
「サンタさんもーらいっ!」
「えー!?ずるいよ〜。僕もサンタさん食べたいんだけど!」
「はぁ!?何言ってんのよ。サンタさんはあたしのものよ」
すでにサンタさんはイリアのお皿に移動されていて、僕には背を向けていた。
しかし、負けてはいられない。
僕だってサンタさんが食べたいからこそ、このケーキを選んだのに。
「サンタさんはみんなのサンタさんだからね!」
「あたしに譲るってのが男じゃないの?トナカイで我慢しなさい」
「えーっ。せっかく僕が予約までして買ってきたのに」
「そんなにサンタさんが欲しいわけ?」
「うん」
呆れらたような目線もなんのその。1度サンタさん、食べてみたかったんだから。
「仕方ないわね。半分こで我慢しなさい」
「えっ!?半分って……ちょ、やめて!サンタさんの喉元にフォーク突き刺さない……あっ」
イリアの行為によって、頭と体が見事に真っ二つ。
「ほら、あんたに頭あげる」
僕の所へサンタがやってきた……頭だけ。
ああ、サンタさん。そんな切ない目で僕を見つめないで。
ごめんなさい。僕がワガママを言わなければこんなことにはならなかったのに。
「いつまでサンタさんと見つめ合ってるつもり?」
イリアのお皿にはすでに体はなく、スポンジを頬ぼっていた。
「あーうん。頂きます。サンタさん」
フォークにサンタさんの頭を乗せて口へ運ぶ。
おいしいにはおいしいのだけれど、何だかやるせない。
「どう?サンタさんの味は」
「……甘い」
「砂糖だから当たり前でしょ」
「やっぱり、サンタさんは体も頭も一緒じゃなきゃ困るよ」
まだ、プレゼント配りもしなきゃいけないだろうし。
なにより、後味が悪い。
「そりゃ、サンタさんも体と頭に分けられる何て思ってなかったわよ」
「そうだ!良いこと思いついたよイリア!」
テーブルから身を乗り出して、ちゅっと軽い音を立ててにキスをした。
「なにすんのよ!」
突然のことにイリアは顔を赤くして怒ったけれど、僕は大満足。
「こうすれば、僕とイリアの中にいるサンタさんが一つになった気がしない?」
ね?と笑いかければ、そうかもね、と小さな声が聞こえた。