僕の腕の中には今、イリアがいる。
仰向けになった僕の胸に、服越しに伝わる熱を帯びたほっぺたをぎゅうっと引っ付けて。
「……イリア」
普通に喋ったつもりなのに、声が掠れる。
「なによ?」
「服、着ないと風邪引くよ?」
「や」
「イリア、お酒臭いよ」
「当たり前よー。お酒飲んでたんだから」
クスクスとイリアは幸せそうに笑った。
最初から説明すると、今から30分前だ。
久しぶりにみんなと会える機会が出来て、楽しく食事をしていた。
そこで出てくるのは、もちろんお酒。
スパーダは成人していて、ワインをグビグビ飲んでいた。
僕とイリアは、少しだけならと言うことでアンジュの許可が降りた。
「ぷはぁ〜っ。お酒って美味しいのね!」
ワイングラスを傾けるイリアに、興味が湧いたエルが手を差し出した。
「ええなぁ、イリア姉ちゃん。ウチにも一口……」
「エルはまだダメよ」
すかさずアンジュのストップがかかる。
そんな様子を眺めてた僕のグラスに、並々とワインが注がれた。
「うわっ、スパーダ入れすぎだよ!」
注いだ犯人であるスパーダは、ニヤリと笑って瓶ごとワインを呷った。
「ルカ、お前って結構イケる口だろ?」
「えっ?う〜ん。まぁ……それなりに」
スパーダに無理矢理注がれたワインに口を付ける。
飲み慣れた味がスッと体に入り込んで、すぐにアルコール分解が活性化する。
まさか僕自身、お酒に強いなんて、これっぽっちも思っていなかった。
「それだけ飲んで、顔色一つ変えないとはな。末恐ろしいヤツだ」
そう言うリカルドも、いつもの青白い顔だから驚きだ。
「ルカ兄ちゃーん、スパーダ兄ちゃん、ちょっと来てくれへん?」
声のする方へ視線を送り、無言で立ち上がる僕とスパーダ。
「うぉらあぁっイリア!アンジュの胸はオレのもンだ!離れやがれ!」
「イリア!上着着て!」
そこには上着を脱ぎ捨てて、アンジュに抱きついているイリアがいた。
スパーダはアンジュを押さえて、僕がイリアを引っ張る。
スパーダと僕の男同士の絆値がグッと上がったような気がした。
ようやく離れたイリアを動けないように、羽交い締めにする。
下をチラリと見れば、僅かに見える胸。
僕には、お酒よりも効果絶大だ。
「なーにすんのよ!せっかくマシュマロを堪能してたってのに!」
「うっせぇ!アンジュのむ」
「スパーダくん」
ニコリと咎める笑顔は、いろいろな意味で殺傷能力抜群で、みるみるうちにスパーダの顔から色がなくなっていく。
「それと、ルカくん」
「はいぃっ」
笑顔の矛先を向けられて、思わずイリアを放してしまった。
「イリアのこと、お願いね」
「あ、うん。ごめんね、イリア。立てる?」
床にペタリと座り込んだイリアに手を差し伸べる。
蒸気した頬、潤んだ瞳、薄く開けられた形の良い唇……落ち着け、僕。
目を逸らそうとした時、イリアの目が敵を射止めるような目に変わった。
「うっわっ……」
イリアが飛びついてきた。
まるでウサギのような軽やかな跳躍で。
みんなが見てる手前、ここで踏ん張らねば男じゃない。
僕の首にイリアの腕。
支えるには必然的にイリアの腰に回るわけで……。スパーダの口笛が聞こえたが、何とか耐えて転倒を免れた。
「んふふふふ……。アンジュも良いけど、やっぱルカよね〜」
みんなの視線が一気に僕とイリアに突き刺さる。
イリアは気にしていないみたいだけど…。
視線に耐えられない、理性も耐えられなくなってきた。
「みんな、ごめんね。先に部屋に戻るよ」
全く放れようとしないイリアを姫抱きする。
「なーにすんのよ!まだ呑むのよ!放しなさいよ!」
言ってることと、やってることがメチャクチャだ。
「おぅ、頑張れよ」
ニヤニヤと笑うスパーダと目を合わせて、また僕とスパーダの絆値が上がった。
「よいしょっと。ほらイリア、部屋着いたよ。早く寝ないと明日辛いよ?」
ベッドに座らせ、僕も隣に座る。
このまま押し倒すのは、卑怯っぽくて好きじゃない。
「暑い、脱ぐ」
「え……」
口があんぐりと開くのが自分でも分かった。
「ちょっ、まままま待って!」
僕の制止虚しく、チューブトップを脱ぎ捨て、ズボンを足の先から抜き取って、そばにある椅子にポイッと放り投げた。
「もぉ〜イリア……」
「だから暑いって言ってるじゃない」
そして、イリアはあろうことか背中に両手をまわし始めた。
その行動の意味を察した僕は慌てて立ち上がった。
「ちょっと待って!僕、出てくから、お願いだから待って!」
イリアを止めようとした僕の腕がイリアの肘にぶつかった。
「わ……」
イリアの体が大きく揺らいだ。
瞬間的に支えようと手が前に出るも、腕だけでは支えきれず、イリアを抱きとめたまま、後ずさった。
膝の裏がベッドの縁にぶつかったて、ベッドにダイブ。
抱き合ったままの僕らの体が、柔らかなスプリングに弾む。
そして冒頭に至る。
「イリア……そろそろ離れてくれる?」
「なんでよ?良いじゃない、減るもんじゃないし」
僕の理性が確実に減っているのは、イリアが知る由も無い。
「えーっと、イリア」
「なによ?」
今日のイリアはお酒も手伝って上機嫌だ。
僕は、暴走するイリアを止めたり運んだりと頑張った。
それなら、ご褒美を貰っても許されるだろう。
いや、許されなくては困る。
「イリア、僕がいる時にしかお酒飲んじゃダメだからね」
「はいはい。わかっーーー」
全て言い終わる前に、僕が口を塞いだのは言うまでもない。