泣くな、泣くな。
ここで泣いたら、今までの泣かないあたしは脆く崩れてしまう。
自分の意思とは関係なく視界が揺れ、滲み、歪む。
全身は血の気を失ったようにガタガタ震えるのに、瞼の裏だけが異常に熱い。
溢れる、そう思った時には抱きとめられていた。
「……アホしいなが」
濡れたのは、あたしの頬ではなく、コイツの服。
まだ幼かった時は声を出して泣くのが当たり前だったし、それ以外の泣き方なんて知らなかった。
いつの間にか覚えた、声を殺して泣くこと。
誰にも迷惑をかけない、そんな泣き方を覚えたのは、いつだったか。
コイツの濡れた服が乾く頃、あたしが泣いてた事も最初から無かった事になってるに違いない。
あたしの一番の理解者は悔しいぐらいコイツだった。