街中が光で溢れて幻想的な雰囲気の中心には、大きなクリスマスツリーが人々を優しく照らしていた。
今年のメルトキオのイルミネーションは例年にも増して豪華で、そこらじゅうにトナカイやらサンタさんが光ってたり、植木にですら電飾が輝いていた。
ひときわ大きいツリーはどこからやってきたのか不思議でしょうがない。
とは言え、こんなに豪華になった原因は自分なのだ。
「どーよ?どーよ?おれ様が腕に寄りをかけて企画したイルミネーションはよ」
ゼロス邸のバルコニーからは、その美しい景色が一望出来た。
「今度から、アンタの前でうっかり口を滑らせないようにする」
「えーだって〜。愛しのしいなちゃんがステキなゼロスくんとイルミネーションが見たいな……なんて上目使いでハート飛ばしあでっ!」
鉄拳制裁。
「勝手に脳内変換するな!あたしは、元シルヴァラント領の人たちにコッチのイルミネーションを見せたい、って言っただけで何でこんな豪華になってるのさ?」
いつだったかポツリと呟いた言葉はゼロスの耳にしっかり届いた。
知らない間に計画され、に呼び出され此処へやってきたら、ちょうど光が灯ったのは少し前の事だった。
「そりゃ愛の力に決まってんだろ〜?プレゼントを届けるのがサンタの仕事だからな。」
でひゃひゃ、と笑うゼロスを横目に盛大な溜め息が出た。
「あんたってヤツは……。でも、まあ、ありがとう。きっと、あたしだけじゃなくて今頃、ゼロスのおかげでたくさんの人が幸せな気持ちになってるだろうね」
「そうだと良いな。」
「そうに決まってるだろ?あたしだって…」
「だって、なんだよ?」
ゼロスが口の端を器用にあげて、楽しそうに笑った。
この笑顔の時は、嫌でも言わなければ無理矢理にも吐かせるぞ、の顔で一番タチが悪い。
「…だからっ、あたしも幸せだよ!」
こんな恥ずかしいこと、クリスマスでなきゃ言ってやらないんだから。
「最初から素直に言えっての」
そう聞こえたのは驚くぐらい近くで、抵抗する余裕もなく抱きしめられていた。
「……素直じゃなくて悪かったね」
「んじゃ、今度は素直に言えよ?」
ゼロスの温かい体が少しだけ離れて頬に手が降りてきて、カチリと視線が固定された。
「な……にさ…?」
「キスして良い?」
心臓がキュッと縮まるのがリアルに感じられて、一気に体が熱くなった。
その間も離されることのない手と視線。
「……今日だけだからね」
ふわり、と降ってきたキスはなんだか幸せの味がした。