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演習指導を終えた伊勢が次に向かったのは、まさに先ほどなまえと話していた昇格試験の実施に向けて行われる会議だった。
一番側臣室で待機との命に急ぎ足で向かうと、既に二、四、五、六、十番隊の副官たちが集い、残りのメンバーを首を長くして待っていた。


「遅れてすみません」
「いいのよ。他の連中もまだなんだし」
「毎度のこととはいえ面倒臭えなあ…実技はともかく筆記考査なんざいらねえだろ」
「筆記がないとアンタみたいな馬鹿がどんどん昇格しちゃうでしょ」
「そうか…あ?今なんつった?」


艶やかな色香を纏う松本乱菊はそれ以上大前田に構うことなく、隣の椅子を引いて伊勢へ促した。


「毎度のことだけど、昇格したい子達のためにもしっかりしなきゃね」
「ひとり、試験を受けて欲しい人がいるんですけど頑なに首を振らないんですよね」
「あらそうなの?放っとけば?」
「そういうわけには」
「いいじゃない別に。ウチにだっているわよ、責任取りたくないからってラクな立場でいたがる子」
「いえ、みょうじさんはきっとそんな理由では………」
「みょうじさん?」


それまで壁にもたれていた阿散井が、伊勢と松本の会話を遮る形で声を上げた。どうやら知り合いのようで、あの人意外と頑固ですよね、と苦い笑いを滲ませている。
松本は阿散井の方へ振り返った。


「なに、恋次アンタ知ってるの」
「入隊したての頃、たまに世話になってたんで」


阿散井は、まだ新入隊士として五番隊に在籍していた頃のことを話し始めた。


「新入隊士って初日、詰所に集まるじゃないスか。俺、寝坊するわ迷うわで焦ってたらみょうじさんが案内してくれて、庇ってくれたんスよ。先輩もみょうじさんを知ってたのか『みょうじさんに言われちゃあな』ってカンジで、お咎めナシ」
「彼女、在籍期間は長いですからね。だから他の隊員も彼女を知っているんでしょう」
「あ、あの、卯ノ花隊長の生花にも欠かさず顔を出してくれますよ。すごくいい方で、時々合同演習でも見かけますけどしっかりした方だと思います。あとすごくいい香りがしますよねえ」


控えめに右手を上げた虎徹が遠慮がちに呟く。永きに渡って護廷隊に所属し続ける女の名前は、伊勢が思うより周知されていた。
だからこそ頭を抱える。
力のある者は責任ある地位につき、下を導く者になって欲しいという伊勢なりの親心は膨れる一方だ。


「討伐班の班長や新人研修にも進んで手を挙げるのに……何を考えているのか分かりかねます」
「そう?ただそのままでいたいだけでしょ。深く考えてなんかないと思うわ」
「みんなのやる気を引き出すのも難しいですよね。そこまで考えなくても…タイミングとかもあるじゃないですか」
「雛森さん…しかし、下の者に示しがつきません」
「おや、伊勢副隊長が手を焼くとはみょうじくんもやるなあ」


穏やかな男の一声で、ざわめいていた室内の雰囲気がぎゅうっと引き締まった。一斉に全員立ち上がり、綺麗に揃ったお辞儀が五番隊隊長・藍染惣右介へ向けられる。


「みんな忙しい中すまないね。集合場所が変更になったから伝えに来たんだよ」
「わ、わざわざすみません。ありがとうございます」


自隊の副官である雛森に微笑で返し、藍染は伊勢へと視線を投げた。


「みょうじくんは見た目によらず結構意固地なところがあるから大変だろう。そこも彼女の長所ではあるんだけどね」
「藍染隊長もご存じなんですか?」
「知ってるもなにも、彼女は元五番隊だよ」







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