▼ ▲ ▼

遅れて隊舎裏へ向かうと、既に同僚が縁側に座り込んでいた。しかしそこに平子と藍染の姿はなく、なまえはきょろきょろ辺りを見回しながら首を傾げた。


『隊長たちは?』
『まだ時間あるし、もう少ししたら来るんじゃない?てかさっきギンちゃんにも声かけちゃった』
『ギンちゃん?ああ、市丸くんのこと?仲良いの?』
『ときどき話すんだけど、あの子すごい可愛いからさあ』
『かわいい男の子っていいよねえ…』


そんな他愛のない話をするうち、辺りが不自然なほどぴたりと静まり返った。喧騒も風もない、不自然な沈黙が首筋にじっとり嫌な汗を滲ませる。早く来ないかなと花火の袋に触れたその瞬間、前触れもなく警報器から怒声が飛び出した。

『緊急招集!緊急招集!各隊隊長は即時一番隊舎に集合願います!!』
『九番隊に異常事態!!』


『っな、なに!?異常事態!?』
『なまえ、早く行こう!』
『行くってどこに…』
『こういうときは詰所で待機でしょう!』


手持ち花火を投げ打って、全員が詰所に向かって走り出した。
同僚の背中を追いかけながら後輩たちに声をかけていく。不安だからだろうか、無性に平子の声が聞きたくなった。さっき話したばかりなのに、思い出そうと努めなければ平子の声が思い出せない。明日になれば会えるだろうと思ったが夜が明けても待機命令が解除される気配はなく、それどころか隊長格の姿もない。胸騒ぎがする。嫌な予感もした。空気を吸いたくて廊下へ出ると、ちょうど走り過ぎた上官の背中に慌てて声を張った。
 

『先輩!何かあったんですか?』
『う、うん。ちょっとね。もう少ししたら通達が回ってくると思うから、それまで待っていてね』
『平子隊長は?隊長はどちらですか?』
『なまえちゃん。大丈夫だから』


まるで自分に言い聞かせているみたいに聞こえたので、それ以上深くは尋ねられなかった。
その日の夕方、通達が下される。
平子真子以下八名の隊長格が失踪したとの内容だった。

(平子隊長が失踪?どういうこと?昨日なにがあったの?どうして誰も何も教えてくれないの?あの人たちがいなくなるはずない、隊長がいなくなるなんてありえない)

混乱した頭の中に、昨夜の警報が頭の中に生々しく蘇る。

『緊急招集!緊急招集!各隊隊長は即時一番隊舎に集合願います!!』
『九番隊に異常事態!!』

あの夜、何かが起きていたのだ。
もしそれを知っていたら、あの夜平子に会った時、もっと違う話ができていたかもしれない。なにか気の利いた言葉を言えたかもしれない。
後悔しても、何もかもが遅かった。



- ナノ -