瞳の中の

斑目一角


『さてさて。今日は何の日だ〜?』

 居眠りをきめこんでいた一角の顔を、縁側に腰掛けたまま反対側から覗き込む。陽射しを遮るように被せていた二の腕を少しずらすと、一角は一瞬だけ薄い瞳をこちらへ向けたかと思えばまたすぐに蓋をした。



「……おめでとう」

 取って付けたようなその言葉。一ミリの感情も込もっていやしない。いや、例えこもっていなくともそれを悟られないトーンとか、無いんかい。あたしはつっこみたい衝動をグッと堪えた。1ヶ月前に同じ質問をしてみた返答が、めんどくせえな、の一言だったことを鑑みれば、彼なりに一つ成長したと言えよう。

 ちなみに今日はあたしの誕生日でも、二人の何かしらの記念日でも、何でもない。だからおめでとうも何もない。そりゃ取って付けて言われても仕方ない何でもない日である。

 三ヶ月程前、現世で一護に会った。そういやお前って一角と付き合ってんだよな、なんて唐突に、まさか一護から恋バナなんて!と思いもよらず、何だい一護、恋のお悩み相談かい?お姉さんに任せなさい!と一人張り切っていたのはいいが、交際期間3年と聞いた途端、絶対嘘だと言い放ち、熟年夫婦だの、むしろ孫がいてもおかしくないと思っていたと一護は真顔で宣った。

 明らかに出掛ける頻度は減ったし、会うのも自室か大抵決まった飲み屋だ。美味しいからいいんだけれども。もはや素っぴんで会うのも何ら抵抗はないし、何も言われない。あたしが此処へ行きたい此れがしたいと言えば付き合ってはくれるが、一角の気持ちは見えない。

 結局何をぐるぐる考えているのか自分でも解らなくなって一角を見た。相変わらず二の腕で蓋をされた瞳は見えなかった。

 何かを振り払うように落ち葉を蹴散らして、空を見上げれば裏腹に太陽が眩しくてなんだか泣きたくなった。やちるちゃんに遊んでもらおうと思い付き、一つ深呼吸をして立ち上がったと同時に、左手首に強い圧を感じた。グンと引っ張られたあたしの体は易々と、いつの間に上体を起こした一角の膝の上に抱えられる形になっていた。驚いて一角を見ればその瞼が閉じられたので、あたしも倣って瞼を閉じた。

 ついさっきあたしを泣かせようとした太陽は、その唇に優しいひだまりの熱を乗せて、あたしを安心させた。瞼をあけて、目の前の愛しいその瞳の中には、紛れもなくあたしが映っていた。





(了)






 - return - 
×
「#エロ」のBL小説を読む
BL小説 BLove
- ナノ -