夏のせい

平子真子
「青春だねぇ」
『布団か何かのモノマネか、それ』
「違うよ、平子くんの真似」
『ハァ?意味解らんこと言うとらんとお前も参加せえ』
「参加してるよ、あたし応援団長」

 くっそ暑い中、絶賛体育の授業中、グローブ片手に木陰に避難する。その木陰にある鉄棒の上に折り畳まったままフレーフレーと両手を広げる椿姫は、グラウンドすら見てない。


『お前なァ、協調性っちゅう言葉知っとるかァ?ガッコゆうんはなァ、勉強だけやのうてそーゆーンも学ぶとこや』
「意外と真面目なんだね、平子くん」
『意外と、は余計や』
「三限目から悠々と登校してくる平子くんマジ優等生の鑑だわー」
『……オマエそれケンカ売っとるやろ』

 茶目っ気たっぷりに舌を出しておどける様は可愛く見えんこともなくなくなくもない。現世の人間には必要以上に干渉せんようにゆうたかて、不自然にならん程度に演じるには、時には女子高生との戯れも必要なワケなんです。以上。
 逆様になって地面につきそうな髪をすくってやれば、椿姫は鉄棒の上でくるっと起き上がる。


 
「やっさしー!さすが真性包茎のしんちゃん♪」
『誰がホーケーやねん!!見せたろか俺の、』
「何でもいいけどさ、もうちょっと静かにした方がいいんじゃない」
『静かにツッコミ入れたらおもンないやんけ』
「ツッコミの話じゃなくて、ケンカの話」
『ケンカァ?』
「この前黒崎くん袴ver.とケンカしてたでしょ。空中で」
『……何やねんそれ。お前この暑さで頭イカれてもうたんちゃうか』

 一番高い鉄棒に移動して、その上に腰掛けた椿姫は感情の読めん視線をこっちに寄越した。そうして、夢でも見たのかな、なんて独り言を呟いた椿姫は何の前触れもなく、躊躇もなく、重力に任せて空気中にもたれかかった。



『お前ッ……!何考えてんねん!!!』
「ナイスキャッチ」
『ゆうてる場合か!お前この高さでも打ちどころ悪かったら十分死ねるんやぞ!?』
「袴姿の黒崎くんは視えないみたいだけど、平子くんはたぶん違うみたいだから」

 反射的に抱き留めてしまった腕の中で、まるでこうなることが解っていたとばかりに微笑まれて、明らかに人間が出来るそれではない速度で駆け寄ってしまった俺は言葉を失くした。
 後ろからかけられたクラスメイトの声に、椿姫はすくりと立ち上がって愛想もクソもない返事をする。



「ま、あたしはただ視えるってだけで、平子くん達が何者だろうと関係ないんだけどさ」
『多少ヒミツがある男の方がそそるやろ』
「うん、」

 惚れ直した、なんて太陽の下で屈託の無い笑顔を向ける椿姫に、不覚にも一瞬心臓の動きが強まったのは気のせいやと思いたい。


「勝負だ、しんちゃん!!」
『何や急にえらいヤル気満々やんけ』
「やるからには勝つ!!!」
『言うやんけ、ガキが』

 拾い上げたバットでこっちを指して、颯爽とホームへ走っていく。その後ろ姿に駆け寄って抱き締めたくてしゃァない衝動にかられとることも、気のせいやと思いたい。

 全部暑い夏のせいにしてその背中を追った。



(了)


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