TOX2未プレイの方は注意
ネタバレを含みます
私は一度死んだ。
それはもう20年も前になるけど、確かに一度私は死んだ。そして再び生を受けた。
俗に言う転生だ。
ただ、普通の転生ではない点がある。私には双子の兄がいて、彼の名はルドガー・ウィル・クルスニク。
それは私の知っているゲームの主人公と同じ名前だった。私の産まれた世界はエレンピオスらしく、文化も言葉も私が使っていた物とは違う。ただ、私はそれらを知っていたのだ。
どうやら私は転生トリップというものをしてしまったらしい。
だから、彼の未来を私は知っている。彼がなにを選択するかで運命は変わるが、全ての結末で彼が仲間と笑っていることはなかった。
だから、私は決心したのだ。
私の命は一度失われた。ならば再び手に入れたこの命は、私の兄が、ルドガーが笑って暮らせる世界を作ることに使おうって。
「ルドガー、骸殼解いて」
カナンの地の最深部、クロノス、ビズリーとの戦いに勝ち、オリジンに分子世界の消滅を願った。その願いは、叶った。代わりにエルを救う道は閉ざされたと誰もが思った。
けど、ルドガーは諦めていなくて、自らをエルより先に時歪み因子化させて、救う道を選んだのだ。
骸殼に身を包んだルドガーが苦しみはじめて、エルが泣きそうな顔でやめてと呟く。それでもルドガーは骸殼を解かなかった。
「エルを一人にするつもり?」
「……一人じゃないさ、ジュードたちも、ロナだっているだろ…?」
「ルドガーがいないと意味ないんだよ、エルも皆も……」
「ロナ…?」
「ごめん、ルドガー」
「何を、う……ッ!?」
ルドガーのお腹を一発殴って気絶させ、骸殼を強制的に解いた。回りにいる全員(オリジン、クロノス含む)が目を見開いて、私の奇行に戸惑っているようだ。
あぁ、やっと真実を話すときが来た。
「私は一度死んでるんだ」
「何言ってるの?ロナは生きてるじゃないか」
「うん、ジュードの言う通り、今は生きてるよ。人生二度目なんだよね」
「どういうことだ?」
「王様はさ、転生って信じる?私はね違う世界で生きて、死んで、この世界でルドガーの兄弟としてまた産まれたんだ」
「それで、そのロナさんが転生したというお話は今の状況に関係があるのですか?」
「大ありさ、私はルドガーやここにいる皆のことを知ってたんだ、前の世界で」
「どうしてですか?」
「うーん…、物語として残されていた、ような感じかな」
「つまり、知っていたのだな、ルドガーがこの選択をすることを」
「うん」
「このあと、どうなるかも知ってるの?」
「もちろん、だからルドガーを止めた」
いまだに気を失っているルドガーの元によって、手に握られていた時計を取った。色違いの私の時計はポッケの中に入っている。
「エルが消えるか、ルドガーが消えるか。二人が笑いあう未来なんて存在しなかった。私はそんな未来が嫌だし、いらない。二人には笑っていてほしい」
「………だからお前が犠牲になるってか?」
「ご名答、よくわかったね」
「今の流れで気づかない人はいないわ、私たちはずっと一緒にいたんだもの」
「そっか…、なら、話は早いよね」
「そんな…、それじゃあロナは…!」
「私は消える。ここで誰かが犠牲にならなきゃいけない運命なんだよ、それなら本来存在するはずでないもの、私が適役だと思ったんだ、だから……」
自分の時計と、ルドガーの時計の力を借りて、骸殼をまとう。あっという間に息があがってきて胸が苦しくなる。
「ロナ!!」
「エル……」
「やだよ、ロナがいなくなっちゃうなんてやだよ!!エルが、エルが消えるから!」
「…これでいいんだよ、だから、エルはみんなと、ルドガーと生きて…」
「ロナ……」
「ジュード、そんな悲しそうな顔しないで…、本来ならあり得なかったはずの時間を、皆と過ごせて良かったよ、楽しかった」
「ロナと、もっといろんなこと話したかったのに……」
「お別れ、なんですね……」
「うん…、もっと女子会、開いとけばよかったかな…」
ここで私の命が終わることはわかっていたから、今まで後悔しないように何でもやってきた。けど、いま思い返してみると、まだやり足りない事ばっかだ。
「でも…、もう時間切れ、かな……」
「ロナ…ッ!!」
「エル、泣かないで、皆に、笑っててほしいんだ」
だから私は消える。
ルドガーとエルが笑いあえる未来を作るために。
「ルドガー…、君と兄弟でいれてよかった…、大好きだよ」
気を失っていた彼の瞳がゆっくりと開かれたのを、見届けて、私の体は霧散した。
あぁ、私の人生は幸せだった。
大切な家族がいて、仲間がいて、皆の未来を守ることができた。
だから満足だよ。
笑顔の君が見たいから
だからお願い、私のことなんて早く忘れて、皆で笑って生きてほしい。
end