朝、窓から入ってきた日の光で起こされた。体を起こして、椅子に座ったまま寝たせいで固まった体をほぐすように伸びをして、机の上にある時計を見たら、私がセットした時間よりわずかに早い時間だった。時計上部のボタンを押して、目覚まし機能を終わらせてから備え付けの簡易キッチンの水道で顔を洗う。
そろそろ彼を起こさなければならない時間だろう。
部屋の中にあるソファで疲労困憊で熟睡しているジュードの所へ向かうと、私がかけてあげた白衣の下ですやすや寝息を立てていて起こすのが躊躇われた。床に落ちてしまっていた読みかけの本を拾って、あと少し寝させてあげようかなと考えたとき、ジュードが何かを小さく呟いて、何を言っているのか気になって顔を近づけたところで、ぱちりと開いた琥珀色の瞳と目が合った。


「え……、え?」

「おはようジュード博士」

「えっ、ちょ、ロナ!?」


どうやらあまりにも私が至近距離にいて驚いているみたいだ。相変わらず初心なところが可愛いな。けど、前に本人に向かって可愛いって言ったら微妙な顔をされてしまったので、心の中だけに留めておく。私は誉めてるんだけどな。


「ジュード顔真っ赤」

「ロナ近い!近いよ!?」


いい加減離れてあげなきゃ可哀想になってきたので、覗き込んでいた体を起こす。起き上がったジュードはまだなんだか眠たそうで、眠気覚ましにコーヒーでも入れてあげようと思ってキッチンにお湯を沸かしに立った。


「ジュードは朝ごはん何食べたい?」

「僕?そうだなぁ……ロナは?」

「私?うーむ……ジュードが食べたいやつ」

「結局それって僕が決めることになるんじゃ……」

「まぁ、いいじゃん」


ジュードは無難にトーストと言ったので、パンをトースターに入れてタイマーを回した。エレンピオスに来たばかりの頃はトースターやらGHSやら全てが目新しくて戸惑ったけども、今じゃ慣れたものだ。便利だし、エレンピオスの人は精霊術が使えないのだから、より手放せないだろう。けど、これが黒匣だっていうのが複雑な所なんだけどね。

コーヒーを入れたマグカップをソファ脇のテーブルに運んで、冷蔵庫からジャムとバターを取り出して焼けたパンに塗る。ジュードにそれを渡してから彼の隣に腰かけた。
さっきまでジュードが寝ていたからか若干ソファが温かい。

「あ、ジュード寝癖」

「え、」


トーストをがじりながら隣に目をやると、髪の一部が変な方向に跳ねていた。ジュードは慌てて直そうとしてたけど鏡がないからうまくいかなくて、まだ跳ねたまま。
女の子みたいにさらさらな髪の毛に手を伸ばして、寝癖の部分をとかしてあげたらジュードは黙り込んでしまった。
トーストはとっくに互いのお腹の中に消えてしまっていて、コーヒーをすすりながら今日の予定を考えていたらジュードに名前を呼ばれて彼の方を向く。するとそこには真面目な顔をしたジュードくんがいて、思わず身構える。


「な、なにかなジュードくん」

「あのさ、ロナは…」


ごくりと、息を飲んで、少しの沈黙の後ジュードは予想外の事を言った。


「僕のこと男として見てくれてないよね」

「はい…?」

「朝起きたらびっくりするくらい近くにいたし、第一、同じ部屋で寝てても何とも思ってない」

「研究忙しいから仕方ないかな、と……」

「でも一応二人っきりだし、僕だって一応男だし……」


ジュードは落ち込んでしまったようで、下を向いて黙り込んでしまった。
男として見てない。そう言われて確かに、とうなずいてしまった私がいる。だってジュードは、


「私としては、可愛い妹ができたみたいな感じだからなぁ……」

「い、妹!?」

「料理上手だし、洗濯から掃除までなんでもできるし、私がだらしないと怒るし、けど、可愛いし」

「……それで妹」

「うん」

「まだ弟って言われた方がましだよ……」


さっきよりも更に落ち込んでしまった様子で、どうしたら元気を出してくれるか考えていると、ジュードが私の方をちらりと見て、それから少し悩んだようだったけど、私の肩をぐいっと押した。
抵抗なんてしなかった。
細く見える腕は予想外の力を発揮するし、第一私が抵抗する気がないから。
柔らかいソファが背にあたり、私を見下ろすジュードと目が合うと、彼は目を泳がせて戸惑った表情を浮かべた。けど、引く気はないらしく私のことをじっと見つめてる。


「僕だって、男なんだからね」


それから軽くキスされて、ジュードは私の上から退いた。
けど、キスされた私よりもジュードの方が真っ赤になっていて、気まずそうに顔を背ける彼がいつもより余計に可愛く見えたことは、拗ねられても困るから黙ってようと決めた。









妹みたいだって思ってるけど、私はジュードが好きだよ。優しいとこ、照れ屋なとこ、頑張り屋なとこ、お節介なとこ、全部全部合わせて、ジュードのことが好き。
end
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