「ユーリ!!!寝れない助けて!!」
野宿の見張り番をしていたユーリに、掛け布団を持参して飛び付いた。突然現れた私に驚いたみたいだけど、傍にあったポットから暖かい飲み物をカップに淹れて手渡してくれたので、どうやら話を聞いてくれるみたいだ。
渡されたのはココアで、ユーリの隣に座ってから一口飲むと何だか落ち着いた気分になれた。
「で、いきなりどうしたんだよ?」
「寝れないの」
「いや、その理由を聞いてんだっつの」
焚き火のぱちぱちと薪の弾ける音を聞きながら、どう説明したらいいのかわからなくてしばらく悩んだ。その間中ユーリは何も言わないでずっと待っていてくれて、次第に頭のなかがまとまってきたので、ゆっくりと口を開いた。
「あのね、昼はさ、みんな起きてるからずっと一緒でしょ?だから大丈夫なんだけど…、夜ねみんな寝ちゃって私だけ眠れなくって、一人だと嫌なこと考えちゃって…、いつもは寝れるまで何も考えないようにしようとかするんだけど、今日はユーリが起きてたから…」
「最近具合悪そうなのはそれが原因か」
「え?」
「おまえ寝不足だろ?エステルが心配そうにしてたのに気づいてなかったのかよ」
そう言えばエステルがよく私に話しかけてたような気がする。戦闘終了後には真っ先に駆けつけてくれてたし。
「心配、かけてたんだね…」
「だからさっさと調子戻して、安心させてやれ」
「そうだよね…」
「で、嫌なことってなんだ?」
「嫌なこと?」
何を聞かれたのかわからなくて聞き返したら、ユーリは呆れたようにため息をついてさっきの事だと説明してくれた。あぁそうか、途中で私の体調の話に逸れたんだったか。
「ユーリに話すまででもないよ、くだらないし」
「くだらない訳あるかよ、それに誰かに話すとすっきりするって言うだろ?」
「……ユーリはさ、もし明日みんなが…いなくなっちゃったらどうする?」
「は?」
「自分一人だけ残されたり、自分だけいなくなっちゃったりしたらとか、考えたことある?」
「無ぇけど…」
「だよね…、私は夜になるとそういうことばっかり考えちゃってすごく怖いの、あと星喰みとかで世界が終わっちゃったらどうしようとか」
「それを阻止するために俺らは動いてんだろ?」
「うん」
そんなのはわかってる。まだ起こってもいない事に怯えるのも馬鹿みたいだって私も思ってる。
けど、考えるとどんどん悪い方にいっちゃって、どうしようもなく怖くて、眠れないんだ。
「ロナ」
「え……、」
名前を呼ばれて反応するより先に肩を引き寄せられた。自然にユーリに寄りかかる体制になって、間近で見るユーリの顔に少しどきりとする。いつもとどこか違った雰囲気で、どうしたんだろう?と思っても声をかけることが躊躇われて何となく押し黙る。
「急に静かになってどうしたんだよ」
「そ、それはユーリがなんかいつもと違うから」
「そうか?」
やっと会話が再開されたと思っても、ユーリの手は私の肩にあって体勢はそのまま。
「おまえさ、一人になるのが怖いって言ったよな?」
「え?うん」
「今さら一人になれるとか思ってるのか?」
「………どういう意味?」
訝しげな視線を送れば、余裕のある大人の笑みを浮かべたユーリがそこにいて、肩に回された手の力が強まった。
「例えおまえが一人になりたいって言っても、俺が離さないし、何処に行こうが絶対に付いていってやる」
「ユーリ……」
「星喰みだって何だって食い止めてやるし、それでももしロナが怖いってなら」
「うん」
「ずっと傍にいてやるよ」
最後に言われた言葉がすごく優しくて、それを聞いて安心したのかここ数日訪れてこなかった睡魔がやって来た気がした。こてんと自分の頭をユーリの肩にのせて、薪のはぜる音を聴きながら目を閉じた。
「ねぇ、ユーリ」
「ん、なんだ?」
「ありがとう」
いつでも君が傍にいる
隣に温もりのある幸せ、それを守るため私は明日も世界と戦う。
end