これのヒスイ視点






ロナが変だ。
いつもより動きが鈍いし、ザコい魔物との戦闘ですら息が上がってる。本人は何でもないかのように振る舞ってるし、シングやエミルも気づいていない。けど、あれは絶対におかしい。


「ヒスイ?どうしたのさ、そんな険しい顔して」


前を歩くロナが不思議そうにこっちを見ている。
お前が原因だっての!
とは、言えないから適当に返事をしておいた。あいつ…、何隠してんだ?








「ロナ!後ろ!!」

「え、」


シングの焦った声が森の中に響いた。
ロナの背後に魔物が迫ってる。いつものロナならきっと魔物を返り討ちにするだろう。けど、今日は違った。

振り向き様に撃った弾が外れた。

体制を崩したロナに魔物は容赦なく襲いかかる。
俺は無意識でロナの名前を呼んで、気がついたらボウガンの矢を放っていた。見事それは魔物に命中してロナの足元にどさりと倒れ込んでいた。
もし、間に合わなかったら…。それを考えてヒヤリとした。

ポカンとした様子のロナにだんだんと怒りが込み上げてきて、勢いに任せてロナの腕を掴む。シングあたりが何か言っていた気がするが、そんなのは今は無視だ。


「え…?」

「おまえ、ちょっと来い」


そのまま他の二人を置いて脇道にそれる。
今日こいつが調子悪かった理由がさっきわかった。


「ねぇ、ヒスイ?どうかしたの?」

「いいからそこに座れ」


倒木に座らせたロナが何か言いたげな視線を送ってきたのに気づかないふりをして、腕を見せるように言ったら、よりにもよって反対の、怪我をしていない方の腕を出してきやがった。こいつ、俺が気づいてないとでも思ってるのか?


「そっちじゃねえ」

「バレてたのか」


苦笑しながら差し出された左腕は、はっきり言ってひどい有り様だ。この状態でさっきまで戦ってたのかよ。ある意味すごいぜ。


「……何でこんなんなるまで放って置いたんだよ」

「あははは……」

「笑い事じゃねぇ!」


ちょっと怪我したじゃすまないほどの怪我だっつーのに、笑って誤魔化そうとするロナにやっぱり腹が立つ。心配してるこっちの身にもなれって。


「ご、ごめんさい…」

「はぁ…、化膿してる、いつの傷だ?」

「昨日ちょっとね」


とりあえずキュアをかければ、痛みが収まったのか腕を動かして嬉しそうに声をあげていた。「これで戦える」とか言ってるのには、もうさすがにため息しかでない。


「……応急処置だからな、任務終わったらちゃんと診てもらえ」

「ありがとう!……そういえばさ、何でヒスイ…私が怪我してるって気づいたの?」

「あぁ?」

「いや、だってね、傍にいたのは前衛のシングとエミルだし、けど二人とも全然気づいてなかったみたいだし…」


言われた言葉にどきりとする。まさか、ずっと見ていたなんて言えるはずがない。
ただ、何となくいつもと違うって思っていただけで、いや、待てよ、それはつまり俺がいつものロナを見ていたってことになるんじゃねーのか?


「……悪いかよ」

「ううん、ありがとう」


頭の中でまとまりきらなかった思考に放置をかけて誤魔化した。それ以上に追及することもなく笑顔を俺に向けてきたロナは、様子を見に来たシング達が見えてすぐそっちに走っていってしまった。その姿を目で追っている自分に気づいて、またため息が出る。無意識とか、もう重症だな、これは。


「…目が離せねえんだよ、おまえから」


魔物相手に楽しげに銃をぶっ放すロナのため、治癒術を唱えながらそんな自分に苦笑する。
あーぁ、コハク以外なんて、どうでもいいはずだったんだけどな。









気がついたらおまえばかり見てるなんて、死んでも言えねぇ
end
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