二日目


研修二日目の今日、


「………………。」
「………………。」


朝から無言の応接室です。ヒバリ君はデスクで黙々と書類を片付けてて、私はそれをソファからただ見つめるだけで会話がない。
時々ヒバリ君がチラリとこっちに視線を向けるものだから、その度に私の心臓が飛び上がって冷静になんていられなくなる。
傍から見れば、今日の私は挙動不審だと思う。
それもこれも、昨日ヒバリ君に惚れてしまったせいなわけで、だってあんなにカッコいい顔を間近で見たらね…。

というか、あの状況で惚れない女の子なんているんだろうか?


「ねぇ……」


いや、実は私がおかしいだけとか?


「ねぇ…」


そんなことない、あの状況なら誰だって惚れるに決まってる。


「話聞いてる?」
「っ!?」


悲鳴をあげなかった自分を誉めてあげたい。だって雲雀君がっ、美形が目の前にいるんだもん!!というか顔を覗き込まれている。
……………近いっ!!!!


「な、なななな何でしょうか!!」
「吃りすぎ」


そういうと彼は身を引き、私の座っている向かい側のソファに腰掛けた。


「君……、熱でもあるの?」
「え?」
「朝から変だよ」
「あー…」


やっぱり気付かれてたか…。どうしよう、バレた…?雲雀君に恋愛感情を抱いていること


「具合が悪いなら、無理にこなくていいから」
「いえ!私は元気です!大丈夫ですっ!!」
「ふぅん……、なら構わないけど」


この様子だと雲雀君は、ただ普通に私の心配をしてくれただけらしい。

ちょっと安心。


「今から見回り行くけど……」
「付いてきます!!」


そんなわけで、只今校内をヒバリ君と巡回中。
やっぱり私たちが廊下を通ると、そこにいた生徒達は道を開けるんだよね。それだけならまだしも、今日は昨日と違って私を訝しげに見ているし…。制服は並中のだから、特別目立つって訳じゃないはずなんだけどなぁ。
他に考えられそうなのは、雲雀君が誰かを引きつれて歩くのがとても珍しい、とか?


「あの……」
「なんだい?」


廊下を歩きながら、私はドキドキする自分をおさえて質問する。あぁ、こんなことでも凄く緊張するよ……


「いつも見回りはこんな感じなんですか?」
「そうだよ」


風紀委員長たるもの、道を譲られるのと大勢の人から注目されるのは当たり前、ってことなのかな?

桜中で見回りなんかしたことなかったけど、だって授業があるしね、雲雀君は授業に出る時間を惜しんでまで風紀の仕事をしている。
私は甘かったのかもしれない……
この研修が終わったら、早速実行に移してみよう。


「ねぇ」
「はい」


研修終了後の計画を頭の中で練ってたら、隣りを歩いていた雲雀君に名前を呼ばれた。


「君は学校でどんな事してたんだい?」
「え?どんな、とは?」
「風紀委員長なんでしょ」
「はい」
「どんな活動してたの?」
「あ、えっとですね……、」


うーん…、挨拶運動とスカート丈のチェックとか他には……


「最近は化粧をしてくる生徒に注意したり、髪を染めている生徒は染め直すまで反省文書かせ続けたり……とかですかね」
「へぇ…」
「色々努力はしてみたんですけど…、まだまだ足りなかったみたいです」


だってどんなに活動を強化しても学校は変わらなかったから。


「あのさ」
「はい」
「君は一週間でここを去るんだよね」
「え、そうですよ。さすがに一週間以上は…、桜中を開ける事はできません」
「そう……」


ハッキリと答えた私に黙り込む雲雀君、なんかまずい事を言ったかな?


「まぁ、いいや」


そう呟いて雲雀君は通常モードに、つまりはまた無言に戻ってしまった。











校内を隅々まで見回った私と雲雀君。
特に問題もなく、無事に応接室まで戻って来た私たち。気がつけばもうお昼時で、どうりでさっきからお腹鳴りそうなわけだ。
でも、雲雀君の前で鳴らす訳にはいかない……っ!!
だって、恥ずかしいし、相手が好きな人ならなおさらだよねっ
てな訳で、私はさっきから空腹と戦ってる。そのせいで見回りの後半は、ただついて回るだけに……。でも、そのおかげでお腹が鳴ることはなかったからいっか。

とにかく、この戦いに終止符を打つため、応接室のソファに座った私は鞄からお弁当を取り出す。向かい側では、雲雀君が同じようにお弁当を用意してて、なんか高そうなお弁当箱だな…。

昨日も思ったけど、雲雀君の家はお金持ち……?
だって、お弁当の中身がとても立派な和食なんだもん。


「食べないの?」


お弁当箱を出してフタを開けずに、ボーっとしていた私、端から見たら変だよね。
慌ててパカリと弁当のフタを開けて中身を見る。なーんの変哲もない普通のお弁当。
だって、朝から凝ったものを作ってる暇なんて無いんだもん。
ポテトサラダに肉じゃが、アスパラのベーコン巻き、ミニハンバーグそしてご飯とデザートとして、別の小さな入れ物にキウイを入れて持ってきたのだ。


「いただきます」


小さくそう言って食べ始める。
うん、悪くない。
しばらく二人とも無言で食べた。私にはばっかり食べという癖があるので、お弁当箱からは一品づつおかずが減っていく。
野菜を先に食べてしまうから、必然的に最後に残るのはハンバーグ、お腹がいっぱいになってきて、ペースダウンしてきた。

自分で作っておいて言うのもあれだけど、量多いな……、ん…?
ふと雲雀君の方を見たら目があった。瞬間視線そらしたけど。だってなんか恥ずかしくて見続けられない……。あれ?でも雲雀君が見ていたのは…、ハンバーグ?


「あの……」
「なんだい」
「ハンバーグ……食べませんか?」


少し驚いた顔をしてから、いいの?と聞いてきた雲雀君に、はいと答えてお弁当を差し出す。それを彼は自分のお箸で掴むと、パクリと口の中へ


「……………。」


無言で食べ終わるのを待つ私。
まずかったらどうしよう……?内心すごく不安で、心臓がばくばく言ってる。


「……美味しい」
「よかったぁ……」


私が漏らした言葉にヒバリ君は不思議そうな顔をした。


「もしかして、自分で作ってるの?」
「え?はい、そうですよ」


私が答えると、彼が少し目を見開いたように見える。そんなに以外だったのか……?
というか私って、どんなふうに見られてたんだろう?

少し自信が無くなった。


「ねぇ、凛」
「はい」


落ち込んでたら、雲雀君に話しかけられて、うん、シャキッとしろ私!


「君さ、ついでに僕のお弁当も作ってよ」
「え、私がですか?」
「君以外に誰がいるのさ」


こ、これって……、なんか恋人みたいじゃないですか!?
彼のためにお弁当を作る。うわぁ……なんか頬が緩む。これはあれかな雲雀君も私に気がある的な!!はっ!!にやけちゃダメだよっ!雲雀君が気があるのは私にじゃなくて、私が作ったお弁当にだ


「凛……?」
「あっ!はい!鈴原凛、これから毎日お弁当をお届けいたします!!」
「……無理はしないでね」
「はい!!」


………ん?あれれれ?
そう言えば、お弁当作ってって言われたことが衝撃的すぎて軽くスルーしちゃってたけど、さっき名前で呼ばれてなかった!?どうしようっ凄く嬉しい!!


あぁ、明日のお弁当何作ろうかな?



自惚れた二日目



お弁当がこれからの私たちを繋ぐ鍵
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