それは一瞬の出来事だった。


任務先で戦闘になって、一緒に来ていた武に背中を預けて目の前の敵を切り捨てていく。細身の刀身が朱に染まっていくのを見ながら次々と殺していく。全滅させるのにそう時間はかからなくて、刀に付いた血を薙ぎ払ってから鞘にしまった。


「これで全部?」
「みたいだな……」


私たちの回りには沢山の死体が転がっている。これだけの数の人の命を奪ったのだ。たった数分の間に、私が……。そう考えて表情を曇らせる。人を殺すのだけはどうにも慣れない。私はこれだけの人を手にかけてまで生きる価値のある人間なのだろうか?人を殺す度に、そう何度も何度も自分に問いかける。
そしていつかは……


「ねぇ……、武、私ってさ、」
「美沙っ!!」
「え、」


武の視線は私の後ろ。振り向くと倒したはずの敵が、私に向かって来るのが見えた。その手に握られている刃物が光を反射しているのを確認できたものの、とっさのことに体が反応せずに立ち竦む。逃げなきゃ殺される。けど、避けるのが間に合わない。向かってくる敵の動作が一つ一つはっきりと見えて、全てがスローモーションで動く世界に、まるで一人取り残されたような錯覚に陥る。

一瞬だった、本当に一瞬だった。

腹部に鋭い痛みが走り、息がつまる。手足に力が入らなくなって、抵抗することもできずにその場に崩れ落ちた。刃が抜かれたときに血が飛び散って、視界が真っ赤に染まったのが見えた。武が私を刺した奴を斬ったのか、男のくぐもった悲鳴が聞こえる。その後すぐに近くに武がそばに来て私の体をゆする。


「美沙……っ、」
「た、けし………敵、は?」
「俺が殺した」
「そ、う……」


死んだんだ、私を殺そうとした人は死んだ。


「今、止血するからな……」


そう言って武が私の傷口を上から押さえたのがわかったけど、もう何だか痛みさえも感じない。まぁ、こんだけ出血してるんだから当たり前なのかな?ぼんやりとしてきた視界でその作業を見ていたら、武の手が私の血で染まっていた。赤、赤、赤……何もかもが真っ赤だった。


「なんで止まんねぇんだよ……、止まってくれ…!頼むから……」


どうやら、血が止まらないらしい。


「……たけ、し……、もう、……、」
「大丈夫だって!どうにかなるから絶対諦めんな!」
「も、う……無理、…だよ…」
「美沙…………っ、」


自分が死にそうだっていうのに、考えてるのは皆のこと。両親のことや友達のこと、ツナや獄寺や……いろいろな人のことが頭の中をめぐる。もちろん武のことも。これが走馬灯って奴なのかな……?死んだらもう皆に会えなくなる。そんなの、すごく嫌だ。

死にたくない死にたくない死にたくないよ

あぁ、私が殺した人たちも同じ気持ちだったのかな?皆と一緒にいたい。皆ともっともっと話したいよ……


「わた、し…ま、だ…死にた、…く……ない……っ」
「当たり前だろ!美沙、頼むから……死ぬな………っ」


真っ暗になる世界。私の名前を呼ぶ武の声がだんだん遠くなっていく。



私が消えた日


死にたくない、それが最後に残した言葉



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