「何見てるんだい」
屋上で空を見上げていたら突如背後から聞こえてくる声。ゆっくりと振り返ってみれば、視界の端の方に真っ黒な学ラン姿の男子が一人。この学校でそんな格好をしているのは、風紀委員しかいない。しかも、腕に腕章をつけているなんて、その中でも唯一人だけである。視線をまた空に戻して、流れてく雲を眺めていたらその人物が私のそばに近づいて来るのがわかった。
「……質問、答えてよ」
彼は少し不機嫌そうな声のトーンでそう言った。それでも私は空を見上げたまま。答えなかったら諦めるかなと思っていたのに、なかなか立ち去る気配がないので私は仕方なく答える。
「………空、見てたの」
ずっと流れる雲を目で追って、ただ空を見上げていただけ。
「今何時かわかってる?」
「二時間目が始まったぐらいだから10時くらいじゃない?」
「わかっててここにいるんだ。僕の前で堂々とサボるなんていい度胸だね」
「普通だと思うけど」
今が授業中で、本来なら私は教室で授業を受けていなければならないことくらいわかってる。そして彼が風紀を乱すものに容赦なく制裁を下す雲雀恭弥だってことも知ってる。でも私にだって譲れないこともある。
「私、教室嫌いなの」
「…………。」
「皆同じ授業聞いて、同じことノートに書いて、授業が終わったらまた次の授業が始まってまた同じことの繰り返し」
「ふぅん」
「だから私は学校自体が嫌い」
それが私がここにいる理由。誰かに命令されて、皆同じように扱われて一日を過ごすなんて絶対に嫌。だから毎日ほとんど授業を聞かずに、保健室にいたり屋上にいたり体育館裏とか焼却炉のそばとか、人があまり来ないところでぼーっと時間を過ごす。まぁ、保健室にいるときは色々注意を払っていないといけないからぼーっと出来ないんだけどね。
「なら学校来なければいいんじゃない?」
「世間はそう甘くないのよ、義務教育があるからそうはいかないの」
そう、義務教育さえなければ、私はとっくにこんな場所からはいなくなっている。こんな退屈な、こんな平凡な毎日なんてつまらない。
「君、変わってるよ」
「よく言われる」
「そんなに毎日退屈かい?」
「ええ、そうよ」
そう答えてから視線を斜め後ろに立っていた彼に向ける。今日始めて見た彼の表情は何故か楽しそうで、新しいおもちゃを見つけた子供みたい、と思った。
「なら、風紀委員に入りなよ」
「風紀委員………」
「僕なら君を退屈になんてさせないから」
そう言って彼が手を差し出す。私は迷わずその手を取った。
退屈な日々にグッバイ
そのまま連れていかれたのは応接室。君みたいな人間は嫌いじゃない。と言った彼がとても新鮮で、始めて学校が退屈じゃないと思った。