ラズロは、今朝食堂でばったり会ったコナミの様子がおかしかったことを気にしていた。
朝食をとり終わり片付けをしていたコナミに話しかけたところ、彼女の声はどもり、目は不自然にそらされて、会話もそこそこに逃げるように去っていってしまったのだ。
原因に、心当たりがないわけではない。
おそらく昨日の夜、酔った勢いで押し倒し何度もキスをした挙げ句、横腹だけとはいえ身体を触ったからであろう。
それにコナミは、いつもとは違う、首もとの隠れる服を着ていた。
ラズロが昨夜付けたキスマークを隠したいのだろう。
もしかしたらそれも、原因のひとつかもしれない。
だが、そんな事で?
と思う気持ちもある。
恋人同士なのだからキスくらいするし、いずれ身体を重ねる日も来るであろう。
あのレベルで、あんな態度をとられてしまってはこの先が思いやられる。
それにコナミは、眠りに落ちる寸前に、キスに関しては許可を出していたはずだ。
ラズロは、朝食を素早くとった後、コナミの姿を探しに根性丸の船内をうろうろと歩き回る。
その姿は意外にも、あっけなく見つかった。
コナミがいた場所は、人気のない後部甲板だった。
「コナミさん」
海を見ていたコナミの後ろ姿に声をかけると、コナミの背中がぴしりと固まったのが分かった。
振り返ったコナミの顔が真っ赤に染まっていて、ラズロはつい笑みをこぼす。
「…なんで笑うの」
「いえあの、可愛いなと思って」
き、と睨んできたコナミに笑ってそう返すと、コナミは更に顔を赤らめてラズロに背を向けてしまった。
そっと近づき、手すりに手をついて彼女の背中を閉じ込める。
「コナミさん、昨日のこと、怒ってる?」
「お、怒ってはない…けど…」
ラズロの問いに、コナミは微妙な返事を返してきた。
「けど?」
その続きを促すと、コナミがもじ、と海に視線を落とす。
「まともに顔が見れないというか…」
「どうして? キスくらいいつもしてるじゃないか」
「だっていつものと違ったもん!」
「え? どう違った?」
コナミの顔が、かあー、と真っ赤に染まる。
「そそそそれにお腹も触られたし」
「…お腹しか触ってないのに」
「なっ」
ぽつりとラズロが呟いた言葉に、コナミがぐるりとラズロを振り返る。
しかし顔が近くて驚いたのか、コナミはすぐに顔を背けた。
「…なんかラズロ、昨日から変」
むす、としたコナミがちいさく呟く。
「…そうかな?」
「そうだよ。 意地悪だよ」
ラズロが首を傾げると、コナミは俯いてそう返した。
「…そんなに嫌だったなんて…ごめんね、もうしないよ…」
しゅんと、俯きながらのラズロの言葉に、コナミが慌てて頭を上げて。
「え、そ、そういう事を言ってるわけじゃ」
「じゃあ嫌ではなかったんだね」
ラズロが間髪いれずに、けろりとそう返す。
コナミは一瞬驚いて、しかしすぐに悔しそうな顔でラズロを睨んだ。
「…」
コナミは睨んだだけで何も言わずに、ぷい、と顔をそらす。
その仕草が子供のようで。
とても自身より年上には見えないコナミを、ラズロはそっと抱きしめた。
「ごめんねコナミさん、怒らないでよ」
「……怒って、ないよ」
ちいさく呟くと、コナミも同じくちいさく返してくる。
「ただ、ラズロも、男の人なんだなあと思って、ちょっと驚いただけで…」
そっと身体を離すと、そう言ったコナミの顔は赤く染まっていた。
「今まで、男だと思ってなかったって事?」
「そんな事は、…ううん、分かってたのに、分かってなかったのかな…」
どうやら、“弟のような彼氏”から“彼氏”に昇格できたようだ。
ラズロは、心の中でガッツポーズをする。
下を向いているコナミの顔をのぞき込むと、コナミの肩がぴく、と震えた。
キスをしようと顔を近づけると、コナミがぎゅ、と目を閉じる。
怯えた肩をそっと撫で、コナミの唇に自身の唇を寄せた。
触れただけで、すぐ離すと、そっと開いたコナミの瞳が一瞬ラズロを見つめるが、すぐにそらされてしまう。
「こんなところで…」
「誰もいないよ」
「そういう問題じゃないでしょ!」
コナミはそう言うと、後部甲板から船内へ続く扉へと足を向けた。
せっかく2人きりなのにもう行ってしまうのかと、ラズロは少し不満に思う。
そこで、ふと、思い立った言葉を、コナミに投げかけてみることにした。
「コナミさん、また一緒に飲みに行こうね」
名前を呼んだところで振り返ったコナミの頬が、予想通り赤く染まって。
愛しさがこみ上げた、扉の一歩前。
ラズロはコナミを強く強く、抱きしめた。
年上かのじょ (なんでそんな可愛いの)
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