キスの雨





 根性丸、ラズロの自室。
 ベッドに腰掛けたコナミの肩が緊張に固まっていて、お茶の準備をしていたラズロは思わず口元を緩ませた。

 2人が、恋人同士になってから3日目の午後。
 2人で昼食をとった後、特にする事もなく、ラズロの部屋に来たのだ。

「はい、どうぞ」
「あっ、ありがと…」

 カップに注いだお茶を渡すと、コナミがそっと受け取り、一口、口に含む。

 ラズロが、ベッドを軋ませ隣に腰掛けると、コナミの肩が更に固まって。

 何気なく横を盗み見ると、コナミは唇を噛みしめ、じっと床を見つめていた。

「ふふ」

 つい、笑みを漏らす。

「ど、どうしたの?」
「いや、すごい緊張してるなーと思って」

 ラズロの言葉に、コナミは恥ずかしそうに俯いて。

「そりゃあ…緊張するよ、ラズロ君と2人きりなんて、初めてだし…」

 そう言いながらはにかんだ笑顔に、ラズロの胸が高鳴る。


 座り直すふりをして、少し近づく。
 コナミはそれには気づかずに、ラズロのいれたお茶に口をつけていた。

「ねえ、コナミ?」
「な、なに?」

 ラズロの方を向いたコナミの頬が、少し赤く染まっているように見える。
 肩は、相変わらず力が入っているようだ。

「僕のこと、呼び捨てで呼んでくれないかな」
「えっ、あ、う、うんっ」

 コナミは頷きながらも、ぱっと顔をそらしてしまった。
 俯いた顔をのぞき込むと、コナミの目が驚きに見開く。
 しかしすぐに、ラズロの求めていることに気付いたのか、少し躊躇いながらも、口を開いた。

「…ラズロ…」
「うん?」
「……ち、近いよ…」

 ぽつりと、恥ずかしそうに呟かれ、ラズロは残念に思いながらも少しだけ身体を離した。

 2人きりというこの状況を満喫しているのはラズロだけのようで、コナミはただただ緊張しているようだ。

 のどが渇くらしく、カップの中身はもうほとんど残っていない。


 ラズロは自分のカップを近くの机に置くと、借りてきた猫のように大人しいコナミの肩をそっと抱いた。

 びく、と震えるが、離れていかないコナミの肩に、心の中で安堵の息をつく。


 真っ正面を向いたまま固まったコナミに構わず、その頬にちゅ、と口付けを落とす。
 コナミは再びびくりと震え、肩をすくめた。

 コナミの顔をのぞき込むと、頬は真っ赤で、目は固く閉じられている。

 何だか可哀想な気もするが、それよりも、可愛いと、愛しいと思う気持ちの方が、強い。


「コナミ」

 名を呼ぶと、おずおずと開いたコナミの瞳が羞恥に揺れた。

 目を見つめながら、俯いたコナミに下からすくうようにキスをする。
 卑怯にも逃げられないよう掴んでいたコナミの肩に、今まで以上に力が入った。


「っ…、ラズロ…っ」

 自身の名を呼ぶ吐息混じりの声が、耳に心地いい。

 もっと聴きたい。

 そう、思ってしまった。


「……コナミ」

 ぐ、と肩を掴んでいた手に力をいれると、意外にも、コナミの身体が安易にベッドに倒れ込む。

 コン、と音をたててコナミのカップが床に落ちたが、気にしている余裕はもう、ラズロにはなかった。

「あ、の、ラズロ、ちょっと待っ───」


 待てるわけもなく、喋っている途中のコナミの唇を、自身のそれで塞ぐ。
 ラズロの服の裾を強く握りしめたコナミの手をそっとほどき、そのまま、指と指を絡めた。

 もう片方の手で、コナミの後頭部を抑える。
 コナミが完全に身動きが取れないのを良いことに、そのまま、何度も何度も、唇を重ねた。


 しばらくしてからそっと目を開くと、コナミはもう気絶寸前といった様子で。

 さすがにやりすぎたかな、と反省しながら、唇を離す。
 固く瞑られたままの瞳が、ゆっくりと、ゆっくりと開かれた。

「ごめんねコナミ、…大丈夫?」

 ラズロの問いに、コナミはぶんぶんと頭を縦に振った。
 困ったようにラズロを見つめた瞳が今にも泣き出しそうに潤んでいて、それが更に、ラズロの情欲を掻き立てる。

 しかしこれ以上彼女に迫っては、本当に泣き出してしまうかもしれないと思うと、解放してやらざるを得なかった。


 まずラズロがコナミの上から身体を離した。
 すぐに起き上がるだろうと思っていたコナミは、天井を見つめたまま動かない。

「コナミ?どうかした?」
「………力、抜けた…」

 恥ずかしそうにぽつりと呟かれた言葉に、ラズロはつい口元を緩ませる。

 コナミの腕をつかみ引っ張ってやると、反動のついたコナミの頭が、ラズロの胸に飛び込んできた。

「あっ…、ご、ごめんっ!」

 慌てて離れようとしているようだが、本当に力が入らないらしく。
 目の前のつむじすら愛おしく、ラズロはそのままコナミを抱きしめた。

 頭を撫で、コナミの頬を包み、優しく上を向かせる。

 キスをしようと顔を近づけると、思いがけなく、コナミの掌が2人の間に入り込んだ。

「きょっ、今日はもう駄目」
「え、どうして?」
「…しすぎだから!」

 そう言ったコナミはふい、と顔をそらせた。

 どうやら1日あたりの回数制限があるらしい。
 ラズロは少し頬を膨らませてコナミの隣に腰をおろす。

 しかし確かに、これ以上キスをしたら止まらなくなってしまうような気持ちもあって。
 素直に、従うことにしたのだ。


 コナミが落としたカップを拾い上げると、
ほんの少しだけ入っていたらしい中身は、すでに床に染み込んでしまっていた。

 この床の染みを見る度、今日の事を思い出してしまいそうだ。

 ふと顔を上げると、同じく床の染みを見ていたらしいコナミと目が合った。
 コナミも同じ事を考えていたのだろうか、その頬が赤く染まって。

 ラズロは、ふ、と微笑んだ。







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