happiness



※「FF5」の「レナとクルルの日常会話」というリクエストでした。小さな幸せ、見逃していませんか?


「狩り勝負だッ!」

 バッツに向かってファリスが唾を飛ばして叫んだのは食事の準備をしていたレナが「あ、そろそろ干し肉切らしそうね」と呟いたことが発端と言えば発端ではあったが、「じゃあ、ちょっくら狩りをしてくるよ。こういうのは男の仕事だしな」なんてバッツが発言してしまったことが原因らしい原因だった。
 バッツにしてみれば含みなどあるはずもない何気ない一言のつもりだったのだが、同じくレナの役に立ちたいと思っているファリスの自尊心と独占欲を刺激する結果となった。
 その流れは「いや、おれが行って来るよ」「いやいいって、ファリスは疲れてんだろ、ココは俺に任せろって」「ふん、そんなコト言ってレナにいいとこ見せたいだけなんだろ?」「……お前だろそれは。疲れてるのは知ってるんだから、わざわざ恥をかきに行く必要はないぜ?」「お前のほうこそおれが狩りに行って、大物捕まえられたら困るんだろ?」「馬鹿言え、何年こういう暮らしをしてると思ってんだ。俺が狩りにおいて後れを取るはずないだろ」「どうせ野兎一羽で満足する生活だったんじゃないのか?」「ファリスこそな、魚釣りとはワケが違うんだぜ。陸の上では俺が先輩なんだから」「釣りを愚弄するようなこと抜かすな!」「糸に針つけて待ってるだけじゃねーか!?」「はっ、これだから素人は!」「陸に上がった河童のくせに偉そうな!」「んだとぉ!? 大体てめーはいつもいつもチョコボくせーんだよッ!」「な、なにおうっ!?」と、まあ、このような具合だ。
 そうしてどんどん関係ない方向へと罵詈雑言みだれうちな口喧嘩が進んでいき、一周回って本格的なケンカが勃発、狩りを行い、決着を付けようじゃないかという運びになったのだった。

「おおよ、望むところだ。レナ、クルル、ちょっと行って来る!」
「あのヤロウより、でっっっかいッ獲物、仕留めて来るからな!」

 ふんと鼻息荒く、大股でどすどすと二人は森へと消えていった。
 「あんまりたくさんあっても持って行けないんだけど……」という、レナの呟きは当然二人には届かなかった。届いていたとしても、狩り勝負を中止する理由にはなるまい。食料は多いに越したことはないが、そのためだけに二人が動いたわけではないし、こうなった二人に理性的思考も論理的行動も期待するほうがどうかしている。

「ま、いいんじゃない? 好きにさせとこうよ」

 馬鹿だなーと内心思いつつ二人の背を見送ってから、勝敗の行方よりも二人の収穫物に興味津々なクルルはひょこっとレナの隣に立った。

「……お肉たくさん食べられそうだしね。あたしもジャガイモの皮剥くよ!」
「うん、ありがと」

 お互い顔を見合わせて、にっこりと微笑む。
 騒がしい二人がいなくなって、女の子二人による調理が始まった。

「それにしても……男子ってホンットに子供よねー」

 クルルは小さな手でナイフを巧みに扱い、シャリシャリとジャガイモの芽を取り除く。レナも同様の作業をしながら「そうね」と相槌を打った。

「バッツってさ、おじいちゃんが乗ってきた隕石のせいで気を失ったおねえちゃんを助けて、それからまた『女の子とじいさんの二人旅、放っておけない!』とか何とか言って、おねえちゃんと一緒に旅するようになったのよね?」

 口も動くが手も動く。あっという間に二人はジャガイモを煮込んでも形が残るようにやや大きめに切って、ごろごろと鍋の中に落とした。既に鍋で炒められていた香ばしい玉ねぎがジャガイモを受け止める。ふわりとバターも香った。

「そうね。思えば出会ってすぐに、二度も助けられちゃったのよね……」

 そのときのことを思い出して、レナは苦笑しながらみるみる頬を朱に染めた。手に取ったニンジンにも迫る紅潮だ。
 当時の自分の無計画さや無力さを恥じてのものなのか、それとも助けに入ってくれたバッツが格好良く思えたがためのものなのか、判別はつけがたいところではあったがクルルには後者だと思えたらしい、含みのある笑みをクルルは浮かべた。にんまりむふふ。おませなクルルさんは色恋沙汰に敏感なのだ。
 だが、恋に恋する乙女とも他人の恋路に茶々を入れる中年女性とも取れる笑みはすぐに苦笑に変わることになる。ニンジンをざく切りする手も止まった。

「だああああっ! ファリスッ! 卑怯だぞ、正々堂々勝負しろォォオ!?」

 森の動物全てが逃げてしまうのではないかというバッツの大絶叫。森の奥から轟く轟く。
 おそらく、ファリスの妨害工作にバッツは見事引っ掛かってしまったのだろう。そのせいで獲物を目前で逃してしまい、憤慨するバッツとそれを嘲笑うファリスの絵が二人には容易に思い浮かべてしまった。

「たははは……これじゃレナおねえちゃんの方こそ“放っておけない”って感じよね」
「もう、ねえさんったら何をしたのかしら」
「バッツもバッツならファリスもファリス、だねぇ」

 パーティー最年少のくせに、クルルは酸いも甘いも知り尽くしたかのようにしみじみと呟いた。




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