月と星






「あ、あの建物! クスリ屋さんだよ、きっと!」

 沼から逸れた小道を地図と看板を頼りに進むと、滝と池とクスリツボそっくりの可愛らしい家がが見えてきた。滝はゾーラホールのものより小さいが、ざあざあという清涼感溢れる水音が心地よい。

『待ってください! ゼロさん、空に人が――きゃあっ!』
「へ?」

 突如遮られた声に振り向く。何か白くてふさふさした物体が視界に入り、瞬間胴に強い衝撃を受けた。知覚に反応が追いつかず、無様に倒れてしまう。

「な、何!?」

 跳ね起き、周りを確認する。いつも傍らにいるはずの冬空色の光が、ない!
 ゼロは血の気が引いた。

「アリス……アリス!?」

 名を呼べども返事はない。真っ青になって来た道を見ると、何故かひょこひょこと歩いてきた白い体毛をもつサルと目があった。人間になれていないのか、おびえている。

「ねえ、君、青い妖精を見なかった?」
『し、知らないよ……! アニキたちがお姫さんのために妖精を捕まえるって言ってたけど、関係ないよ!』
「お姫様? その話、もっと詳しく――」
『忙しいからヤダ!』

 するりとサルは足下を抜けていってしまう。相当急いでいるらしい。

 ……絶対怪しい。

 ゼロは、ひとまずあの白いサルを追いかけることにした。

 その姿を遙か上空から見送る人物が、いた。

「妖精さん……みたいだけど、違うのだ」

 青年の向かう先、『フシギの森』と呼ばれる場所の真上には、絵筆と紙を持った小さな人間が、対照的に大きな風船でぷかぷか浮いていた。


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