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君の名を知りたい

...

急げッ!!動ける者は重症者の手当てをッ!!
早く蝶屋敷へ運べッ!!!



背中に"隠"の文字が書かれ目元以外が黒一色に包まれている黒子達。目元しか表情は見えないが、慌ただしく動き回り飛び交う罵声に現場の惨状が伝わってくる。



「……ぐぅっ!!私はっ…いいからっ、早く他の人の手当てを…っ!!」

地面にうつ伏せの状態から立ち上がれずにいるなまえに隠の一人が心配をして声を掛けてきた。
身体の怪我は大した事はない。骨は折れていないし意識もしっかりしている。なのに返事をするのがやっとの状態。それでも自分の性格が邪魔をする。



全身が熱い、呼吸が乱れる、全集中の呼吸が出来ない。くそ、あの鬼の血鬼術のせいだ。
鬼の頸を切った時に出た薄緑の霧。きっと毒だ。
避けようにも正面から突っ込んだ、のがまずかった。



咄嗟に口元を袖で覆ったが間に合わなかったのだろう。なまえはそれを吸ってしまったのだ。



「他の隊士は無事で御座います。さ、蝶屋敷までお送りします。」
「ーーッ!!?」

隠が起き上がる気配のないなまえを起こそうと肩に手を掛ける。触れた瞬間に味わったことのない痛みが走る。触るな!!と手を払い除けて刀を地面に突き刺し、それを支えに無理矢理起き上がった。


「…なんで重症なのにそんなに強がるの?せっかく隠が手を貸してくれるって言ってるのに。今だって全集中の呼吸が全然上手く使えてないし。それにあんな無防備に突っ込むなんて馬鹿なの?よく今まで生きてこられたね。」


音も無く、気配も無く、突然の声に驚き顔を向ける。
身体に合わない大きな隊服に身を包み、長い髪は途中から新橋色をした少年が立っていた。



あ。この人、刀を握って僅か二月で柱になった、霞柱だっけ?
いやいや、何?確かに何も考えず突っ込んだけど、初対面ですよね?何でこんな言われなきゃいけないの?私より年下だよね?

あーもう五月蝿いな、



言いたい事は多々あるが、なまえは今はそれどころではない。無一郎を無視してフラフラの身体で歩き出す。

が、視界がグルグルと歪み、呼吸が早まる。全身の力が抜けていく感覚に襲われなまえは意識を失った。


無一郎はすぐになまえを支え、横抱きにする。

「この子は僕が蝶屋敷まで運ぶから。後は頼んだよ。」

そう隠に伝えると無一郎は地面を踏み込んで、その場から消えた。
     









ここは蟲柱、胡蝶しのぶの私邸である治療所。
部屋には無機質なベッドが一つと来客様の丸椅子が一つ置いてある。
そしてベッドにはなまえが寝ていて、椅子には無一郎が座っていた。

なまえは薄緑色の入院着を着せられて、腕にはしのぶが調合した毒消しだろうか、点滴が繋がれていた。
布団が小さく上下に動いて、規則正しい呼吸音が聞こえてくる。


無一郎はまだ目を覚さないなまえを見つめて、頬を優しく撫でていた。


どうして僕は、君の事が気になるんだろう。


先程の任務で、無一郎となまえは初めて出会った。
鬼の討伐に派遣された剣士達が苦戦している。と鎹鴉からの報告を受け、たまたま近くにいた無一郎が援護に向かったのである。


駆けつけた頃には、戦闘は終盤を迎えていた。
出番はないと思ったが、一匹だけ気配の違う鬼がいる事に気がついて走り出す。

辿り着けば、他の隊士達が尻込みをしている中、真っ向から鬼に向かって突っ込んでいく君がいた。
殺気を丸出しにして鬼に向かう。動きに無駄が多く、攻撃を見抜かれ、弾き飛ばされる。それでも何度も何度も立ち向かう姿に目が離せなくなった。不恰好ながら迷いなく刃を振るう心の強い君を守りたいと思えた。


今はあの時の殺気が消えて、長いまつ毛が閉じられている。

体格が恵まれている、とは言えない。腕だって白くて細くて。よくその腕で頸を落とせたものだ。
無一郎は彼女がこの先も何も考えずに無鉄砲に飛び込むのか、と考えれば胸が痛んだ。

よく見れば顔や手に無数の古傷がある。鬼殺隊に入る隊士の大半は家族、友人、愛する者を鬼に殺された者達だ。きっと彼女も大切で大事な人を殺され、怒りを原動力にしているのだろうか。


「どうしてだろう…さっきの君は格好よかったよ」




だから、
早く目を覚まして、まだ君の名前すら知らないから。

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