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頑張り屋で純粋な人

....


私は竈門炭治郎が嫌いだ。

那田蜘山の討伐任務後、蝶屋敷には沢山の負傷した隊士が運ばれてきた。
蝶屋敷はこれまでにないほど、忙しくなりアオイ達を始め、看護師が慌ただしく動き回っている。

その中でも最も重症だったのが我妻善逸。蜘蛛の毒で右腕右足の蜘蛛化による縮みと痺れ、さらに左腕の痙攣。

さらに、下限の伍と相打ち覚悟に戦い、顔面及び腕足に切創、全身の筋肉痛、肉離れに加え下顎打撲の竈門炭治郎、そして喉頭及び声帯の圧挫傷で落ち込みまくる嘴平伊之助が運ばれた。
ちなみに禰󠄀豆子は寝不足と診断された。



中でも、竈門炭治郎は、那田蜘山で蜘蛛の糸で操られた他の隊士をどうすれば死なせず助けられるかと模索し、一人でも多くの隊士を守りたいと奮闘した。柱合会議では妹は鬼殺隊として鬼と戦える、と柱の前で宣言し、あの風柱に頭突きを食らわした、らしい。実際見てないのだけれど、話を聞く限り無謀にも程があると思った。

病室に入るなり一番に、「山に入ってくれたんだな!大丈夫か」と怪我した善逸の事を気にかけ、「無事でよかった、助けに行けなくてごめん」と伊之助に涙ながらに謝る。

それが竈門炭治郎。
自分の事よりも真っ先に他者を心配して、思いやれる優しい男だ。


私もその任務に参加していた。何とか、生き残る事も出来た。そして、数人の隊士達と炭治郎達の三人と病室を共にしている。

だが、とにかく善逸が五月蝿くて早く回復してこの部屋からおさらばしたい。
そんな中、炭治郎が、五月蝿い善逸にここは病室だから静かにしろ、と注意している姿を毎日、毎日、嫌と言う程見せられた。
後は、弱クッテ、ゴメン。と落ち込みまくる伊之助を全力で頑張れと励ます姿も嫌と言う程見た。

正直、彼だって無傷では無いし、鬼を連れた鬼殺隊と色眼鏡で見られるだろうし、この先が決して楽な道では無いのにこうしてヘラヘラと笑う炭治郎を見ていると、無性に腹が立つ。


三人よりも先に身体が回復した私は機能回復訓練を始めた。アオイやカナヲに必死に食らいつく。それから数日後に炭治郎と伊之助が加わり、善逸も参加を始めた。

そして、女子に勝てない悔しさから、伊之助と善逸は次第に来なくなった。


残った私と炭治郎は黙々と回復訓練をこなし、炭治郎は訓練の合間に呼吸の鍛錬もしている様子だった。
負け続け心が折れた伊之助と善逸に、自分が出来るようになればに教えられるからと笑う炭治郎。

どこまでも真っ直ぐで揺るぎない瞳なんだろう。
来なくなった伊之助と善逸なんて放っておけばいいのに。こんな事を思ってしまう私は醜いのだろうか。真っ直ぐな炭治郎を見ていると自分の心が醜く思えて、私は炭治郎から視線を逸らした。

そんな些細な仕草も見逃さない炭治郎は、すぐに声を掛けてくる。
さすが優男ですよ、抜かりないですね。そんな皮肉を言ったって、きっと皮肉だとは思わず、素直に受け取るんだろうな、この男は。

「どうしたんだ、なまえ?体調でも悪いのか?」
「どうして、炭治郎はそこまで頑張れるの?」
「どうしてって…...うーん、そうだな、....そもそも俺は長男だし、俺が頑張らないと禰󠄀豆子を人間に戻してやれないだろ?」
「………今、長男って関係なくない?」
「そうか?すまない」

眉を下げて笑う炭治郎。なんでそんな顔をするの?やっぱり炭治郎と喋ってるとなんか肩の力が抜けちゃうな、と思う。

「俺はなまえもすごく頑張っていると思うぞ!」
「私はただ、早く任務に戻りたいだけで…、あと善逸が凄く五月蝿いから…、」
「確かに。善逸は少し、いや、かなり五月蝿いな。」
「……でしょ?」
「それでも弱音を吐かずに頑張るなまえを見て、俺も頑張らなきゃって思うよ!」


そう言ってスッと伸びて来た炭治郎の手は私の頭を優しく撫でた。

撫で慣れてる。

それもそうか、よく禰󠄀豆子の頭を撫でている姿を目撃する。長男固有の特性なの?長男なら誰でもそうなの?マメだらけのゴツゴツした手は見た目に反して優しく温かい。

無意識に、長男として、私の頑張る姿を純粋に応援しているといった意味なんだろう。

誰にでも優しく、分け隔てなく接してくれる。
そして人一倍頑張り屋で純粋で綺麗で強い心を持っている。
長男だからが口癖なのは少し変わっていると思うけど…。
そんな彼を信頼できて、頼りになるからこそ、沢山の人に愛されるのかもしれない。

それが私が、知ってる竈門炭治郎だ。


「……この人たらしめ……、」
「えっ、そんな事ないぞっ!俺は一番近くでなまえを見てるからこそ、応援したくなるんだ!」
「こういう、自覚無いのが一番、厄介よね。」
「………困ったな、本心を言っただけなんだけどな。」
「大丈夫、これは褒め言葉だよ。」
「そうなのか?でも、なまえから嫉妬の様な匂いがするぞ?」


そういえば、この男、鼻も効くんだった。
やっぱり私の心を乱す竈門炭治郎が嫌いだ。



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