あの男が俺に望んでいることは、なんとなくわかっていた。いや、なんとなくな時点でわかってないのかもしれないし、正確にはわかろうとしていないのかもしれない。
だって、めんどうくさいじゃない。俺にそういうのを求める時点で間違ってる、なんていうのは、きっとあの一年の彼に言えばまた説教をくらうことだろう。

佐藤は、身長も高いし基本人当りがいい。たぶん俺らの中で一番社交的。顔も悪くないと思う。
三年になって、彼はよく下級生の女子から呼び出されるようになった…らしい。
一度ラブレターをもらったことがあるだけでそんなものとは縁遠い俺には、よくわからないけれど。
佐藤は呼び出されたことも、その先で何があったのかも、隠さずに俺に話す。
まるで何かを試すように俺をみて笑って、頓着せぬ俺の反応に一瞬固まって、曖昧に笑う。
そんな佐藤を、毎回鈴木が呆れた顔をしてみていた。
けれど、佐藤がそれ以上何か言うことも、鈴木が俺を諭すようなことも、ありはしないから。
それでいいんだ、とは勿論思ってないけれど、そう急がなくてもいいことなのかな、くらいに考えていた。

俺に近寄ってくる連中を時には露骨に威嚇し、それなりに嫉妬というものをしているらしい彼は、俺にもそうして欲しいのだろう。
忘れていたけど、佐藤と俺は一応そういうのが存在するような間柄で。
だからなんとなくわかっているけれど、嫉妬という感情はいまいち俺の中で理解の範疇を超えている。
そもそも俺からしてみれば、こんな自分ながら佐藤が好いてくれているのはわかっているから、特に他を気にする必要がないというか。
めんどうくさいから、と言いつつも、きっとこれは贅沢なことなのだ。
少しくらいは彼の期待に応えてやってもいいかもしれない、と思う時もたまにある。
でもやっぱり、言われてできるものでもなくて。

それでも、振り回される彼女達が可哀想だから、応える気がないのなら最初から無駄に愛想を振り撒くのをやめればいいのに、と考えることは、それに通じているんじゃないかとか。
いや、やっぱり俺にはわからないや。
いつかもうちょっと俺が人の心をわかるようになったら、今よりめんどうくさがりが少しでも解消されたら、それまで佐藤が俺を好きでいてくれたら。
いつか、彼の望む反応を返せればいいな、と思う。
今のところは、これくらいで勘弁してもらおう。




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