「帝人くん」
「何ですか?」

帝人は今、疑問すら抱く気にもなれない程当たり前の様に自分の部屋に居る臨也に後ろから抱き抱えられるようにして座っている。
無駄だとわかりきっている抵抗をしてみせるほどの気力は帝人にはなかった。

「俺さ、今日もシズちゃんに殺されかかってね」
「あぁ、でしたね」
「ん?もしかして見てたの?」
「まぁ……」

(見てなくても分かりますけど)

「えー、じゃあ助けてくれれば良かったのに」
「嫌ですよ。まだ命は惜しいんで」

(だいたい僕が出て行ったところで止まるわけないし)

非難めいた視線を背後から送り首筋にキスを仕掛けてきた臨也の頭を押し返しながら、帝人は素っ気なく答えた。

「俺だってそうだよ」

(じゃあ、わざわざ突っ掛からなければいいのに)

「帝人くん?」
「臨也さんが死んだ方が世界の為なんじゃないかと思って」
「…………」

背後から伝わる驚きの気配、次いで耳障りな笑い声が静かな室内に響く。

「やっぱり帝人くんはいいね!大好きだよ」
「ほんっと、趣味悪いですよね。僕は大っ嫌いです」
「そんなこと言って、俺のこと引き剥がさないクセに」
「力で勝てないのは分かってるんで」

(できたらとっくにそうしてます)

「懸命だね」
「どうしたらあなたを追い出せるんでしょうか」
「…シズちゃんでも呼ばない限り無理じゃないかな」

(そうか。その手があった)

「じゃあ……」

帝人はポケットから携帯電話を取り出すと、電話帳から"静雄さん"の文字を表示させた。後ろからそれを覗き込んでいた臨也が息を呑む。

「え、待って…冗談だよね?」
「僕、冗談って好きじゃないんです」
「シズちゃんを呼ぶってことは、俺に死ねって言ってるのと同じだよ?」
「そうですね。今までありがとうございました…あぁ、お礼を言うようなことなんてなかったですね」
「帝人くん本気?ちょっと酷くない?俺泣いちゃうよ?」
「気持ち悪いこと言わないで下さい。…でも、こんな会話もこれが最後ですね」
「………」
「どうしました?逃げなくていいんですか?」

未だ"静雄さん"の文字を表示させている携帯の画面を臨也に突き付ける。

「帝人くん…俺は君を愛してる」
「…僕は愛してなんていません」

帝人はそれが意味するところの重さなど全く感じさせることのない軽やかさで発信ボタンを押した。

「……さよなら、帝人くん。またね」
「さようなら、臨也さん。もう二度と会うことはないですけど」

ヒラリと手を振りながら部屋を出て行く臨也を冷めた笑顔で見送る。

臨也が去った後、帝人は発信中の画面を表示している携帯に視線を落とし、通話に切り替わる前に終了ボタンを押した。

(…静雄さんに何て言おう)

着信履歴を残してしまったので、程なく自分の携帯が鳴り始めるのは必然。
けれど用件はもう無くなってしまった。
帝人は床に仰向けに寝転がり、臨也を追い出すために利用してしまった相手への言い訳を考えながら目を閉じた。



さよならごっこ
(そうして僕らは何度でも繰り返す)





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