「何なんだよ、毎度毎度!そんなにヤりたいなら二人でやりゃいーじゃんよ!」

毎度ルームメイトがいない時を見計らって部屋に押しかけて来ては自分をいいように扱う御幸と降谷に、栄純はとうとう溜まっていた不満を爆発させた。
今まさにコトに及ぼうとしていた――座った栄純を背後から羽交い絞めにするように抱える降谷と、足元でズボンを脱がせにかかっていた御幸が揃って動きを止める。

「二人で…なるほどな」
「…?」
「じゃあ、二人でやるか」
「え」

顎に手を当てまた何やらろくでもないことでも考えたのだろう御幸が、突如、不思議そうにしていた降谷にキスをした。
自分を挟んで行われたそれに、栄純は信じられない思いで目を見開く。
降谷もまた予想していなかっただろう事態にいつもの無表情のまま固まってしまっている。
それをいいことに、更にキスを深くしようとした御幸に、いち早く我に返った栄純は緩くなった拘束を振りほどき慌てて二人の間から抜け出した。

「か、勝手にやってろ、バーーカ!!」
「あ」

二人を部屋に残し、栄純は振り返ることなくその場から逃げ出す。
そもそもそこは自分の部屋だったなんてことは頭にはなくて。

(まさか、本当に二人があんなことするなんて…)

予想していなかった事態に、ありえないくらいのショックを受けている自分がいて、栄純は自分で言っておきながら混乱して涙目になっていた。

涙に霞む視界の中、目的の部屋に辿り着きノックもしないままに飛び込むなり、そこにあった温かな桜色にダイブする。

「はあぁぁるうぅぅぅっっち!!」
「え、わっ!?どうしたの、栄純君」

勢いのまま飛びつかれ、バランスを崩し尻餅をついた春市にしがみついたまま、栄純はえぐえぐと泣きじゃくる。
尋常ではないその様子に、胸元に埋まる癖っ毛を優しく撫でてやりながら、春市はどうしたのかと尋ねた。
「御幸と、降谷が…」と言ったきり黙り込んでしまった栄純に、聞くまでもなかったかと凡その察しがついた春市は、泣く子をあやす様に頭を撫でていた手を背に回す。

そうして暫くもしない内に、今度はきちんと部屋のドアがノックされた。
返事をすると、間を置かず開いたドアの先には春市の予想した通り御幸が、そして少し距離を置いて降谷が立っていた。
未だ春市にしがみついたままの栄純の姿に、御幸が苦笑を漏らす。

「あー、その、面倒かけて悪かったな。そいつ、回収してくからさ」
「…こんな風に泣かせておいて、すんなり返すと思いますか?」
「……」

普段温厚な人間が怒ると怖いというのを体現したような春市の態度に、御幸はひくりと頬を引きつらせる。
いつもの丁寧な口調で、口元は笑っているのに、纏う空気は冷ややかで。
黙ってしまった御幸と、普段から無口な降谷。沈黙が場を支配する中、春市の腕の中で栄純がもぞりと身じろぐ。

「ごめん、春っち。俺、戻るから」
「もう大丈夫なの?」
「へーき」

胸に預けていた顔を上げた栄純が、涙の痕の残る顔でへらりと笑う。
心配そうに栄純を見た春市は、しかしその性格を理解しているため、仕方ないというように息を吐いた。

「…今度栄純君を泣かせたら、僕が先輩たちを泣かせますから」

入口に立ち尽くしたままの二人に向けて、春市が不穏な笑みを浮かべた。
その気迫に、御幸と降谷はゾッと身を震わせる。
蛙の子は蛙。やはりあの人の弟なのだと、二人は笑顔の怖い先輩を思い浮かべ、無言のままこくこくと首を振った。

さっきは悪かった、と謝罪の言葉を口にする御幸と、やはり無言の降谷に挟まれて自室に引き返しながら、栄純は未だに自分が何故あの時あんなにもショックを受けたのかがわからずぐるぐるもやもやする心を持て余すのだった。




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