「あれ、止めなくていいんですかィ?」
「今更ですし、言ったところで素直に聞くとは思えませんので」
「……そーですかねェ」

衆合地獄にある花街で、その名を知らぬものはおらんだろう生粋の遊び人は、今も視界の隅で女を侍らせだらしのない表情を浮かべとる。
どこか冷めた風にそう言う鬼灯さんの横顔は、男の自分からしてもうっかり見惚れてしまうほどに美しく。

美丈夫というのはこういうお人のことを言うんじゃろうな、なんてことを思う。

じゃからかどうか、今のアンタが言えば喜んで聞くと思うが…と口から出かかった言葉は寸でのところで呑み込んだ。

今まではどうだったか知らんが―あの方同様素直じゃないこのお人がそんな言葉を口にしたりはせんだろうが―今の、恋人という立場にある鬼灯さんの言うことなら、流石に聞くんではなかろうか。
じゃが、やはり素直でないこの方は口が裂けてもそんなことは言わんのだろう。
傍目にとて、仕事に託けて白澤の旦那の様子を見に来とることくらいわかるというに。
じゃからこそ、もし本当にあの方が花街遊びを止めてしまえば、この方がここに来る回数もぐんと減るだろうことは想像に容易い。

そうですよ、と即答した漆黒の瞳に浮かぶのは諦めの色。
憂いるようなそれがまた美しいなァと思う。

「信用、ないんじゃねェ」
「そんなものはあの男から一番遠い言葉です」

はは、と乾いた笑いが漏れる。

それでもアンタは、あの男がいいんじゃね。

なんて、ボッタクリ妓楼のポン引き風情が言えた義理じゃあないな、と思わず頭を過った思考を散らすように煙管に口付け、溜め息の代わりに燻る紫煙を吐き出した。




***

白澤は気紛れで自分と付き合っているのだと思っている鬼灯と、鬼灯から女遊びを止めろと言われるのを待ち望んでいてそれまでは止めるつもりのない白澤。
どう動こうかと思案する檎。
的な感じでした。




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