予め部屋の中に他のメンバーがいないことを確認して、ソファーに腰掛けるシンタロー君の背後にそっと歩み寄る。
その手元にある本にシンタロー君の意識が向いてるのも承知の上で、なるべく驚かせないように声をかける。
「ねぇ、シンタロー君」
「んー?」
返ってきたのは予想通りの生返事。
「シンタロー君ってさ、引きこもるのが好きなんだよね?」
「…あぁ」
「じゃあ、パソコンは?」
「好き」
「じゃあ、音楽は?」
「好き」
「じゃあじゃあ、僕は?」
「す…ん?おい、今何を言わせようとした?」
本から顔を上げたシンタロー君がジロリと僕を見る。
一番言って欲しかった言葉を前に、どうやらこちらの目論見がバレてしまったらしい。
普段はどこまでも鈍いくせに、どうしてこういうとこだけ鋭いのかなこの人は。
「だって、シンタロー君ってば自分からは全然言ってくれないんだもん」
「だからって、こんな風に言わされて言うもんでもないだろ」
「えー僕はこんなに言ってるのにー」
不公平だよ、と唇を尖らせ、身を屈めてソファーの背凭れに顎をのせる。
すぐ隣でシンタロー君の溜め息が聞こえた。
子供っぽいとでも呆れられてしまっただろうか。
どうしよう、と思考を巡らせようとした刹那、
「そういうのは無理に言うもんじゃなくて…」
パーカーをぐいっと引かれ、近付いたシンタロー君の唇が僕のそれに触れる。
「ぇ」
「好きだ、バーカ」
「シ、シンタローく…」
やばいやばいやばい。何これ。シンタロー君ってば時々驚くくらい積極的っていうか攻撃的っていうかそういうところも反則的に可愛すぎっていうかあーもう大好き!
「おい、カノ」
「ぅえ!な、何?」
シンタロー君からの滅多にないデレに舞い上がり過ぎて脳内でシンタロー君への愛をぶち撒けていると、急にかけられた声に現実に引き戻される。
ドキドキと未だに治まることのない鼓動をなんとか誤魔化し、真っ赤になっているだろう顔を見られまいと咄嗟に欺く笑顔を作る。
何を言われるのだろうかと待ち構えるも、シンタロー君が口を開く気配は一向にない。
頬を薄っすら染めて何かを言いたげに、うっかり睨み付けられているのではないかと勘違いしてしまいそうな上目遣いで僕を見つめるシンタロー君。
どうしてこんな風に自分達が見つめ合ってるのかとか、どうしてシンタロー君が何も言わないのかとか、考えたいところではあるが、そんな可愛すぎるシンタロー君を前にしては思考がまともに働かない。
「……」
「…?」
「……っ」
「!」
あぁ、そうか。
少しの見つめ合いの後、漸く落ち着いてきた頭で考える。
さっきの行動と、シンタロー君が自らは口にしない意味。
そこから答えを導き出す。
「僕も大好きだよ、シンタロー君」
シンタロー君専用のとびっきりに甘い笑顔でそう言って、見事正解だったらしいそれに満足気に口角を上げたシンタロー君の首に腕を回し、後ろから抱き締める。
あぁ、このソファーが邪魔だな。回り込んでからにすればよかった。
そんなことを頭の隅で考えながら、チュッと二度目のキス。
珍しく腕の中で大人しくしている愛しい人に、幸せを噛み締める顔がだらしなく緩む。
そして、ふと気になったことを投げかけてみる。
「ていうかさ、さっきと言ってること違わない?」
「何のことだ。俺は何も言ってないだろ」
「えー、それは狡くない?」
「知らん」
愛するシンタロー君にあんな風に見つめられれば好きだと言ってしまうのは当然じゃないか。しかも、あれは明らかに言葉を要求するものだっただろう。
それを屁理屈で誤魔化そうとするちょっぴり狡い年上の恋人は、僕の責めるような視線から逃れるようにぷいっとそっぽを向いてしまった。
それって自分の負けを認めてるも同然の行為だと思うけどなー。
自分でももちろんわかっているのだろう。背けられた顔の、その耳が隠しようもなく真っ赤になっている。
そういう素直じゃないところもまた可愛くて、赤く熟れるそこを甘噛みすれば、ビクリと肩を跳ねさせたシンタロー君の渾身の一撃が飛んできたのはいうまでもない。

あれぇ?さっきの甘さはどこいったの!?



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シンタローの好きなものがわかりませんでしたすみませんでした




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