ぶくぶく。ぷかぷか。

うっすらと光指す水面に向けて泡が上り、水面近くでぱちんと弾ける。
水の中に身を沈め、まるで水と一体化したような気になって穏やかにその光景を眺める。
ぽこぽこと浮かぶそれは紛れもなく自身が生み出したものだ。

どれくらいの時間そうしていたか。水面にふと影が差し、ハル、と名を呼ばれる。
ざぶんっと何かが水中に侵入し、つめたっ、と水の膜の向こうから声が上がった。
その何かが肌に触れ、ぐいっと水中から引き摺り上げられる。
ぱちぱち。目を瞬かせて、髪の水分を払うように頭を振る。

「うわっ、冷たいって!」

飛沫が掛かったのだろう。そこに立っていた幼馴染みが腕を掴んでいた手を離し、怒ったようにこちらを見た。

「ハル!この時期に朝から水風呂に入るのはやめろって言ってるだろ」

と、どうやら水が掛かったことを怒っていたわけではないらしい。
というか、それこそこちらの勝手である。

「風邪引いたらどうするんだよ。こんなに体が冷たくなって…」

ムッと顔を顰めれば、考えていることが伝わったのか、真琴が苦い顔をする。
そして、両手で顔を挟み込まれ、心配そうに揺れる緑の瞳が眼前に迫る。
チュッと触れ合った唇は確かに自分よりも温かく、体が冷えていることを自覚する。

「唇も紫になってる」

己の唇で触れたばかりのそこを親指のはらでなぞりながら、真琴は眉を顰めた。
温かな感触に、薄く開いた唇からホッと息が漏れた。
もうすっかり馴染んでしまっていたはずの水が急に冷たく感じられて、もっと温かさを求めた体が勝手に動く。
ばしゃんっ。水を跳ねさせて、浴槽の縁に腰かけていた真琴に抱き付く。
容赦なく体重をかけると、真琴の体が斜めに傾ぎ、それでも辛うじて浴槽に突っ込むことは免れた。

じんわり。求めていた温もりが伝わるのと同時に、真琴の服が触れた部分から水を吸って変色していく。

「ハル、服が…」

水分を含み肌にはり付くそれに抗議の声を上げながらも、言葉とは裏腹に背中に回される腕。抱きしめ返されたことで、ぴったりと上半身が密着する。

「やっぱり冷たいね」

柔らかい声音が耳朶を擽る。
確かめるように、背に回されていた手がむき出しになっている皮膚の上を這った。
膝立ちの状態で真琴に抱き付いているため、下半身はまだ水中だ。さすがにそこまでは触れてこないものの、ギリギリのところまで手が伸びる。
背骨の上を辿るようにゆっくりと下っていった大きな手が、水着と肌の境界を探るように動いた。
その感触を楽しむように数度そこを行き来した手は、再び上昇し肩甲骨をなぞり上げ、仕舞いには首筋に触れる。

ハル、と諭すように名を呼ばれて、真琴の肩口に埋めていた顔を上げる。
にっこりと楽しそうに微笑む真琴の顔が近付いて、唇が重なった。

促されるまま開いた唇に舌が入ってきて、口内を蹂躙される。
角度を変えて何度も貪られ、漸く離れた唇の間を唾液の糸が伝う。

息が乱れ、体温は確実に上昇していた。
潤む瞳で真琴を見れば、どうするかと問うように余裕のある笑顔が返される。
言わずとも察しろというように無言で睨みつけると、真琴の顔がだらしなく緩む。

そして、片腕は背に回されたまま、浴槽との隙間を縫うように水中に突っ込まれたもう片方が膝裏に回される。
掴まっててね、と言われて首にギュッとしがみついた瞬間、ザパァッと盛大な飛沫を上げて体が宙に浮いた。

「足も冷たい」

と、当然のことを口にしたかと思うと、抱えられた膝頭にチュッと唇が落とされる。
お姫様抱っこというものに抵抗がないといえば嘘になるが、慣れとは恐ろしいものである。

すぐに温めてあげるね、と笑みを浮かべた真琴の逞しい胸に額を押し付ける。

「バカ、変態」
「褒め言葉かな?」

絶対に違う、と心の中で否定しつつも、面倒くさいので口にはせず、思い立ったように顔を上げてジッと自分を抱える男を見つめる。
すると、どうしたのかと窺うように真琴の顔が近付いてきて、その予想通りの行動に、せめてもの抗議とばかりにその頬っぺたに噛みついてやった。

目を丸くした真琴が、いつから噛み癖なんてついたのかな、とブラックな笑みを浮かべたことで何かやらかしてしまったらしいと感じるも、今更後の祭りであった。



(触れていいのは貴方だけ)





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