「ねぇ、帝人くん」
「………」
「何でそんなに逃げるの」

臨也さんの醸し出すオーラに嫌なものを感じて、自然と後退りしていた。そのまま壁に背がついて、部屋の隅に追い詰められたのだと気付く。

「帝人くん」

名前を呼ばれる度、心臓が跳ねる。目が合った瞬間、無意識に視界から臨也さんを排除する。

「…そんなに、俺が怖い?」
「え……」

その言葉に、臨也さんを見ないように伏せていた顔を思わず上げてしまう。
視界に飛び込んできた臨也さんの表情は、僕のこの気持ちが何なのかわかってるかの様に自信に満ちていた。

「別に…そんな、ことは……」

否定の言葉は驚くほど弱々しかった。
それ以上自分からは引けない二人の距離を、臨也さんが更に縮める。
獲物を追い詰めるように。愉快そうな顔をして。
少し身動きすれば体が触れ合いそうな距離で、これでは心臓の音まで聞こえてしまいそうだ。

「君が俺を怖いと思うのは、下手なことをして俺に見放されるのが怖いからだ。ドキドキと鼓動を刻む心臓は、俺を好きだと君の変わりに告げているだけ。…違うかな?」

大きく見開いた僕の目には、自分の言葉こそが真実だというように悠然と微笑む臨也さんの姿が映る。
どうしてこの人はこうも自信満々にそんな事が言えるのだろう。

自信に満ちた表情を格好いいと思ってしまった事実が、余計癪に触る。

だから、腕の中にしっかり僕を捕らえてそう言った貴方に、僕は決して頷くまいと思った。


『それは世にいう恋というものじゃないかな?』




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