朝、目を覚まして外に出ると、視界一面に眩しいくらいの白が広がった。
(はぁー、すっごい雪景色)
昨夜から降り続いていた雪が一晩で作り上げた見事な情景を前に、翌朝には積もるだろうかと床に就く前に目を輝かせていた男の姿が浮かぶ。
この光景を見れば子供のように喜ぶだろうその姿を想像しながら、佐助が寝所へと足を向けた矢先、サクサクと雪を踏みしめる音が耳に届く。音はこちらに近付くにつれ忙しないものとなっている。

「佐助!」

(ありゃ、もう起きてたか)
いつから外にいたのか、雪が積もるほどの寒さに鼻と頬を赤くした幸村が満面の笑みで近付いてくる。

「旦那、今朝は早起きだったんだね…で、いつから外に?」
「起きて外を見たら雪が積もっていたのでな、思わず飛び出してしまった!」
「へー」

呆れ気味に問うたそれには、元気一杯な答えが返った。
問いの答えとしては今一つずれているが、いかにも幸村らしいなと佐助は苦笑を漏らす。
意気揚々と白い息を吐く姿は、まるで雪に浮かれる犬っころのようだ。

「そんな雪だらけで、子供じゃないんだかr…」

ばふんっ

あまりに浮かれている幸村に小言の一つも言おうとした佐助の顔に、いきなり雪玉が投げつけられる。ひんやりとした感触が顔を覆って、背筋がぞっと泡立った。

「だーんーなー」
「そんなところで何をぶつぶつ言っておるのだ!佐助も早く来ぬか」
「誰がっ」

ばしんっ

またしても飛んできた雪玉は、佐助が避けたことにより目標を見失い、無残に床に打ち付けられ砕け散った。
佐助とて二度も同じ手をくうほど馬鹿ではない。

「避けるとは卑怯だぞ!」
「何言ってんの…」

(避けるなって方が無理な注文でしょうが)

「いいから、早く来い!」
「はいはい…っと」

ちょっとだけ付き合えば気も済むだろうと、佐助は手招きされるままに白の中に身を躍らせる。
このまま雪玉を投げ続けられて屋敷が水浸しになるのも面倒だし…と、そこまで考えて、何故忍の自分がそんなことを気にしなければいけないのかと今更ながら気付いた佐助である。

「で、何をしようっての?」
「勿論、雪合戦だ!!」

決まっておろう、と幸村は胸を張って自信満々に言った。
(いや、薄々は感付いてはいたけど)

「あのさー、二人でやるってのも虚しいんじゃないかな」
「むっ…そう、か」

敢えて突っ込めば、幸村はあからさまに気を落とし項垂れた。
本当に犬であれば、ピンと立てていた耳を力なく伏せ、振っていた尻尾は勢いをなくし垂れてしまったような姿に、佐助は心苦しくなりつつ代替え案を提示する。

「じゃあさ、雪だるまつくるなんてどう?」
「あぁ…」
「ほら、大将に似せた雪だるま作ってさ、大将に見せようよ」
「おぉっ!」

よほど雪合戦がしたかったのだろう。士気のいまいち上がらない様子の幸村に更に付け加えるように言えば、大将という二文字に反応した幸村は、途端にピンと耳を立て尻尾を振った…ように佐助には見えた。なんとも現金なものだ。

それから、二人でせっせと雪玉を作った。

「旦那、そっち持って」
「うむ!!」
「…よし、完成っと」

二人で協力して雪だるまの頭になる雪玉を持ち上げ、一回り大きな雪玉の上にのせる。
漸く完成した自称”お館様雪だるま”
(そのままじゃん、という突っ込みはするまい)
何せそんなものを作ったのは初めてで、形は多少歪であるものの、我ながら良い出来ではないかと幸村は誇らしげだ。

「早速お館様に!」
「待った待った」
「何故止める」
「何でって…」

今にも信玄の元へ突撃せんとした幸村の着物の衿首を引っ掴んで進行を阻む。
解せないというように見上げてくる幸村と己の姿を、佐助は改めて見やる。

「そんな全身びしょ濡れなまま行けないでしょうが」

ずっと雪を触っていたのだから、体温で溶けた雪と汗とでだいぶ体が濡れ汚れている。
このままでは、いくら幸村といえど風邪をひいてしまうかもしれないし、仮にも我らが大将のもとに馳せ参じる出で立ちではない。

「成る程」
「だから、お風呂入ってから行こうね」
「そうだな!!」

今度こそはと、解放された幸村は一目散に駆け出した。
行き先は当然風呂場であるが、そんなに急いだところでこんな朝っぱらから風呂が沸いているわけもなく。佐助は急かす幸村を尻目に一生懸命風呂を沸かすことになる。

「佐助は共に入らぬのか?」
「えぇっ!?いや、まぁ…何ていうか……」

(一緒に、ってのは…色々とまずいんじゃないかなー)
しどろもどろに言葉を濁す佐助に、幸村はまったく理解できないというように首を傾げる。

「つべこべ言わず入れ」
「でもねー…」
「そのままでは風邪をひいてしまうではないか。佐助が風邪をひいて困るのは某故」

(そんなことを力一杯言うかね)
(まぁ、事実そうだろうけどさ)

「…そうだね」

どんな言い分を振り翳そうと、それが正しくともそうじゃなくとも、結局根負けするのは大抵佐助の方なのだ。
(なんだってうちの旦那はこう押しが強いんだか)

なんとかその場を切り抜けた佐助と、一人の男の苦労など知らず浮かれいてる幸村は、風呂を出て装いも新たに信玄の元へと向かう。

そして、信玄を伴い雪だるまをお披露目すると、言うまでもなく(もれなく佐助まで)熱い褒めを頂戴した。
いかにむさ苦しかろうと、そんな幸村を可愛いと思ってしまうのだから自分も大概重症であると、佐助は彼方を見やった。

「さて、幸村よ」
「何にございましょう、お館様!」
「雪といえば何があるか…」

意味深に言って、信玄がにやりと口角を上げる。

「雪、にござりますか?」
「うむ。雪、じゃ」
「雪…」
「雪合戦に決まっておろう!」
「っ!!」

その口から飛び出したそれはまさに先ほど幸村が口にしたものと全く同じで。
(ホント、似たもの同士なこって)
ちょっと妬けちゃうわ、なんてことを考えていた佐助の耳に、不穏な言葉が飛び込んでくる。

「しかしお館様、三人だけでは…」

(ん?もしかして俺、頭数に入れられてる…みたいな?)

「甘いぞ幸村。三人だけなどと誰が言った」

(あれ?こっちも?)

事態を呑み込めないでいる佐助を余所に、信玄の言葉に応えるかのようにしてどこから湧いたのか兵達がわらわらと集まってくる。
佐助は嫌な予感を覚えつつも、生憎と逃げおおせることは適わなかった。

「準備はとうにできておるわ!」
「さ、さすがにございます!!お館さばあぁぁ!!!」
「ゆきむるあぁぁ!!」

その咆哮が合図であるかのように、雪合戦は開始された。

途中脱落者が多々出たものの、武田家雪合戦は幸村と信玄の興が冷めるまで続けられたのだった。
佐助はというと、生真面目に参加しているわけもなく、途中でこっそりと抜け出し屋根の上からの高みの見物へと転じていた。
(やれやれ…付き合ってらんないよ)



−−−−−−−−−−−−−
幸村の犬力発揮。
武田の皆様もお熱いです。
佐助は…どこまでも佐助です。

この後またまたさっき以上にびちゃびちゃになった幸村を佐助が風呂に入れてあげてればいい。
今度は我慢せず手を出しちゃえばいいよ。




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