※設定などは今のところ決めてないので皆様のご想像にお任せします。





放課後の誰もいない教室で、幸村は自分の机に顔を伏せてすやすやと寝息を立てていた。
今は試験期間中で、部活動も休み。用のない者は真っ直ぐ帰宅が規則だ。
この教室に限らず、もう校内に残っている生徒も少ないだろう。
静寂が落ちる教室に、誰がしかの来訪を報せるようにドアの開く音が響く。

「Hey!honey」

偶然かどうなのか、幸村の姿を発見した政宗はいつものようにテンション高く声をかけるが、当然返事はない。
不審に思った政宗は幸村に近付き、机に伏せられた顔を無遠慮に覗き込む。

「Oh!こいつぁSleeping Beautyじゃねぇか」

その寝顔をみて、どうやら政宗はよからぬことを考えたようだ。

「たしか眠り姫は王子のkissで目覚めるってのがtheoryだよな」

にやにやと笑う顔を隠しもしないで、政宗は幸村に己の顔を近付ける。しかし、あと少しで念願果たされるというところで、開きっ放しだったドアから入ってきた人物が行為を遮るように声を上げた。

「あぁー!!てめっ、独眼竜!俺の幸に何しようとしてんだぃ!?」
「あぁーん?」

政宗が顔を上げると、いつもは陽気な声を尖らせて叫んだ相手はずかずかと二人に近付いてきていた。
せっかくのチャンスを邪魔してくれた慶次を政宗が険を孕んだ独眼で睨み付けると、慶次の方も負けじと政宗を睨み返す。

「Ha…誰かと思えば前田の風来坊じゃねぇか。で?誰がテメェのもんだって?」
「幸に決まってんだろ。だから幸を起こすのは俺なんだよ」
「What?幸村にkissするのはこの俺だ」
「アンタなんかに幸の唇は渡さねぇ」

政宗が何をしようとしていたか、すぐそばまでやって来た慶次は眠る幸村の姿から察した。
そして最初こそオブラートに包んでいた下心がみえみえになったのも気にせず、ぎゃあぎゃあと騒ぐ馬鹿二人に、挟まれた幸村の瞼がふるふると震える。
ゆっくり瞼を持ち上げると、寝ぼけ眼のまま自分の周りで言い争っている政宗と慶次を見た。その視線を受けて、漸う二人は幸村を起こしてしまったことに気が付いた。

「テメェがうるせぇからhoneyが起きちまったじゃねぇか!」
「アンタのせいだろぅ?」
「No!!テメェのせいだ」
「アンタだ!」

幸村が目覚めてしまった=キスできなかったという思考の二人は、また互いに責任を擦り付けあって騒ぎ始める。
今にも相手の胸ぐらを掴みにかかりそうな勢いで睨みあう。その間にはバチバチと互いにしかみえない火花が散っていた。

「…政宗殿に慶次殿、このようなところで何をなさっておいでか?」
「Good morning!!honey」
「……おはようござりまする」

それまでの剣呑さをどこへやら。打って変わって笑顔を浮かべた政宗が、さらうように幸村の手をとり甲に恭しくキスを贈る。
未だ寝惚けている幸村の反応は薄く、対して大仰に反応してみせる者が一名。

「ふざけんじゃねぇぞ、アンタ…」

怒りも露わに今にも牙を剥きそうな慶次。
政宗も食って掛かろうとしたものの、ふとある考えが浮かんだことでやれやれと肩を竦めてみせた。

「二人でこうしてても埒があかねぇ。ここはいっちょ、幸村自身に決めてもらうのが手っ取り早いんじゃねぇか?」

いっそ本人に選ばせようという提案に、慶次もそれはそうかと納得する。
互いが互いに、ひとえに自分が選ばれると信じて疑っていないところはある意味見事である。

「さぁ、幸村」
「アンタはどっちが好きなのか」
「「選んでくれ」」
「う?」

漸く覚醒し始めたばかりの幸村の脳は、その急速な展開についていけないでいる。
だが、そんなことはお構いなしとばかりに政宗と慶次は幸村に詰め寄る。
意味がわからずおろおろと困惑していた幸村の元に、颯爽と助け舟がやって来た。

「旦那お待たせー…」

開かれたドアから現れた佐助の姿を視界に捉えて、幸村はそもそも自分が担任に呼び出された佐助を待っていたのだったと思い出す。
教室内に踏み入った佐助は、幸村を取り囲んでいる二人をみて唖然とした表情を浮かべた。
そちらに気付いた政宗と慶次は、共通の敵である佐助の登場に揃って睥睨した。

「邪魔すんじゃねぇよ」
「そうそう。野暮なことはしちゃいけないよ」
「…って言われてもねぇ」

佐助は当然、邪魔なのはあんた達の方だよと内心思いつつ、口にはせずに二人を睨み付けた。次の瞬間には、打って変わって爽やかな笑みで幸村へと向き直る。

「帰ろうか、旦那」
「しかし…」

促す佐助に、まだ状況を理解しきれていない幸村は躊躇う素振りで政宗と慶次を見た。
しかし、幸村の扱いなど佐助にはお手のもの。

「早く帰らないと、大将が待ってるよ。夕飯の買い出しもしないとだし」
「おぉ!そうであった」

その一言でたちまち活気づいた幸村は鞄を手に勢いよく立ち上がり、ドアのところで待つ佐助の元へと駆け寄った。
さっきまでの出来事は既に頭から飛んでしまっている様子で。

「では、本日はこれにて。また明日、お会いしましょうぞ」

呆然と一連の流れを傍観していた二人に向けてそれだけを告げると、幸村は佐助とともにさっさと教室から出て行ってしまう。
去り際、佐助が取り残された二人に向け勝利の笑みを浮かべたのはいうまでもない。


「さて、今日の夕飯は何にしようか…旦那は何が食べたい?」
「そうだな…佐助が作る飯は何でも美味故…」
「そう?」

辺りに人はなく静かな教室には、廊下で交わされる会話まで聞こえてくる。
わざわざ聞き耳を立てずとも自然と届く会話。
その他愛のなさに虚しさばかりが募る。

「食いもんに負けた」
「いや…虎のおっさんだろ……」

もはや嘆くことすらできぬ完敗ぶり。どうにも虚し過ぎる二人である。
悲しみが湧かぬのなら、次に顔を出すのは何かなど決まりきっている。

「それにしても…」
「「あの野郎気に食わねぇ」」

沸々と湧いた感情の矛先は、当然のように佐助へと向けられた。
いつもいつも当たり前のように幸村の傍にいてなに様かと、燻る怒りが膨れ上がる。

「くしゅっ」
「風邪か、佐助?」
「いやー、勝者の宿命ってやつ?」
「?」

小さなそれを聞き咎め、幸村は案じるように隣を歩く佐助を見上げた。
けれど、返ってきたのは幸村には到底理解が及ばないもので。そんな幸村を微笑ましそうにみた佐助は、旦那が気にすることじゃないよ、と優しく言って頭をぽんぽんと撫でた。

その頃、残された二人はそれまでいがみ合っていたのが嘘のように打倒佐助と闘志を燃やしていた。

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プチ幸村争奪戦!!

信号もいいと思うけどやっぱり佐幸が一番好きです。
おいしいとこ取りな佐助がすごく好き。




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