現ぱろです。



重い。想いが重いなんて洒落を言うつもりはないけれど、女の涙というやつはとかく重い。
僕に長年想い続けている相手がいるなんてことは周知の事実であるだろうに。どうしてこうも彼女たちは涙を流すのだろう。
ただ想いを伝えたかった。それだけであったなら「ありがとう、でもごめんね」と。それだけで済んでしまうのに。
断られることがわかって告白してきたくせに、どうして。
そもそも想いを伝えること自体どうかと思うのは、少々冷め過ぎだと人格を疑われてしまうだろうか。
僕の想い人に勝てる自信がある。そんな傲慢さが透けてみえてしまった時にはひどく不快な気分になって。ついつい軽蔑の眼差しで彼女たちをみてしまうけれど、そんなことにも気づかずに彼女たちは泣くのだ。
想いを伝えられるだけましではないかと、理不尽に妬む気持ちを抑えているだけでも褒めてほしいものなのに。
だってそうだろう。彼女たちは気持ちを伝えて涙を流してすっきりできるのかもしれないけれど、こちらの気持ちなどお構いなしだ。僕にはそれがどうにも自己満足に思えてならない。相手の気持ちを考えれば、いくら自分が苦しくともそんなことは出来ないはずだ。
本当に勝手なことだ。そうは思っていても、たとえ何度繰り返そうと、慣れなることのないそれには辟易してしまう。
女性に泣かれるのが苦手なのは、男の悲しい性というやつなんだろうか。
彼女たちの想いのこもった涙が、地に落ちずに自身の中に溜まっていくようで。重い。息が苦しい。溺れてしまいそうだ。
伝えるべきことを伝えたあとでは彼女にかける言葉はもうなく、その涙を止める術ももたない僕は、ただただ。
あぁ、早く彼に会いたいな――そんなことを思うのだ。


また泣かれたのかこの色男。
顔に疲れが出てしまっているのか、長い付き合いになる幼馴染みの彼は察してそんなことを言う。
そうして羨ましいなどとは言わずにそっと肩を叩いて「お疲れさま」と笑う。ぽん、と軽いそれだけの衝撃で、滞っていた流れが正常化されたように息ができる。
彼をとりまく空気は清涼剤のようだ。
じぃっと見つめられて、鼓動が勝手に走り出す。
彼といると落ち着くのに落ち着かない。すべて自分が悪いことで、彼にはなんの落ち度もない。
泣かれるばっかりじゃ息が詰まるだろ。お前もたまには泣いていいんだぜ。
いつでも胸を貸してやる、と両腕を広げて言ってくれる彼のなんと眩しいことだろう。
そのまま薄い胸へと飛び込んで、その服がびしょ濡れになるまで泣けたなら。
けれど、心は動いても涙は出なかった。
苦しい。泣いてしまえたならどれほど楽だっただろう。
ありがとう。獅子王くんのそういうところ好きだよ。
なんとか震えないように言い切って、やましいところなどないように笑ってみせた。
これくらいならば許されると思っている自分も、結局は彼女たちのことを責める資格はないのかもしれない。
ただ、長い付き合いの彼がこれくらいで苦しむこともなければ、自身がその先を望んでいるわけでもないから、やはり違う。そもそもが同性同士では、真意など伝わりようもないのだから。
彼は目をぱちぱちと瞬かせて、やがてはにかんだように「俺も」と返す。
その意味が違ったなら。彼が自身と同じ気持ちで「好きだ」と言ってくれたなら。
その時こそ僕は、彼の胸に縋って身も世もなく泣いてしまえたのだろうけれど。




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